作成者別アーカイブ: 鈴木 あつみ

完全な人間を目指さなくてもよい理由―遺伝子操作とエンハンスメントの倫理―

本書はMichael J. Sandel著のThe Case against Perfection: Ethics in the Age of Genetic Engineeringの全訳である。本書における議論は主に「エンハンスメント問題」に対する批判的考察であり、著者がとりわけエンハンスメントを問題視する理由は、それによって人間の行為主体性が損なわれるからではなく、我々の「生の被贈与性」の感覚を見失わせるからである。生の被贈与性を認めることは「われわれが自らの才能や能力の発達・行使のためにどれだけ労力を払ったとしても、それらは完全にはわれわれ自身の行いに由来してもいなければ完全にわれわれ自身のものですらない」という感覚を認めることである。もし自分あるいは子に対するエンハンスメントによって「自ら創り出す人間」という神話が現実化すれば「われわれの才能とは感謝すべき贈られものではなく、自らに責任のある偉業にほかならない」と考えるようになり、われわれは多くの物事を偶然ではなく選択のせいにするだろう。遺伝子操作によって自らの才能や幸運の偶然性が選択に取って代われば被贈与的性格は薄らいでいき、われわれは所与の事柄や不測の事態を受け入れる謙虚さ、「招かれざるものへの寛大さ」をも失っていくだろうと本書では述べられている。 完全な人間を目指さなくてもよい理由―遺伝子操作とエンハンスメントの倫理― マイケル・J・サンデル 著 林 芳紀・伊吹 友秀 訳

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短時間低コスト化した遺伝子解析、次の課題は精度

2003年にヒトゲノムが解読されるまで、遺伝子解析には13年の年月と30億ドルの費用がかかった。後に技術が進歩し「次世代シーケンサー」と呼ぶ解析装置が登場、今では2~3年、10万円程度でヒト一人の全遺伝子を解析できる。ネット検査サービスでは検査する遺伝子数を制限し期間や費用を抑えている。またネット検査では平均的な発症リスクとの比較で自分の発症率を出すため確定的ではない。多数の遺伝子データが集め関連性の精度を上げる為、大学を中心とした団体が個人の健康状態を長期間調査すると共にデータベース作成の取り組みを進めている。 2016.12.8 日経産業新聞

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ゲノム編集特化機関、日本に設立

大阪大学がゲノム編集技術の利用支援や研究に特化した拠点「ゲノム編集センター」を設立した。ゲノム編集の研究拠点を常設するのは日本初だ。人間の様々な病気を再現したり治したりした動物の細胞や受精卵を使って研究し、将来は筋ジストロフィー等難病の治療への応用も目指す。ゲノム編集は2012年に登場したクリスパー・キャス9という技術が従来に比べ高い効率で狙った遺伝子を操作でき、難病治療や品種改良作物への応用が期待されるが、基礎研究や臨床応用では欧米に遅れをとっている。 2016.12.15 日経産業新聞

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安全性の高いゲノム編集技術、神戸大で開発

神戸大の教授らが自由に遺伝子を改変するゲノム編集で安全性の高い新技術を開発したと発表した。現在使われているクリスパー・キャス9はDNAを一旦酵素で切断してから遺伝子改変するが、この新技術はDNAをつくる塩基の一部に化学変化を起す別の酵素をつけ、一部の塩基を別の塩基に変えて遺伝子改変する。DNAを切らない為細胞への負担が少なく、微生物にも使いやすい。既存の技術は特許紛争や使用料の問題で企業が使い難いが、国産の編集技術が普及すれば国内企業の利用を後押しできるとして年内のベンチャー企業立ち上げと普及を目指す。 2016.8.5 日経産業新聞

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対温暖化の植物、ゲノム編集で開発すすむ

徳島大がゲノム編集技術を使い乾燥に耐える植物を作る実験に成功し、愛媛大では遺伝子操作で乾燥や塩害に強いイネを開発するなど地球温暖化による将来の気候変動に強い農作物の開発に大学が力を入れている。徳島大では最新の編集技術クリスパー・キャス9を使い、葉の裏の気孔を開閉するたんぱく質の働きを抑制することで日頃水分を放出している気孔を閉じやすくし水分を失い難くした。生育に影響はなく、様々な植物に応用して中東やアフリカなどの乾燥地での実用化を狙う。 2016.11.21 日本経済新聞

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安全面、倫理面で日米学会がヒト細胞の改変に懸念

日米の遺伝子細胞治療学会は「ゲノム編集」技術を胚細胞や受精卵で使うことに強く反対する声明を出した。4月に中国が発表した受精卵を使った研究を受けてのことだ。会見では、胚細胞などに改変を加えることについて「安全上や倫理上の懸念が深刻」と指摘し、研究が進み今後安全性が増しても胚細胞のゲノム編集やその他生殖細胞の改変を倫理的に許容できないとした。一方でエイズ患者の治療に使われる体細胞のゲノム編集については「有用で適切に進められるべき」とし、更に動物での生殖細胞を使った遺伝子編集の研究も継続すべきとした。 2015.8.5 日経産業新聞

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加速するゲノムビジネス、異業種の参入も

日米欧など国際共同プロジェクトによるヒトゲノム解読と並行して、ゲノム関連ビジネスが加速している。医薬品業界では遺伝子機能の解析結果を利用したゲノム創薬の競争が激化すると見られ、疾病の根本的な治療に結びつき個人差に合わせた副作用の少ない医薬品が期待される。医療・医薬品関係以外にもバイオ企業、電機メーカーなどでも遺伝子関連ベンチャーとの提携や研究開発体制の強化が進んでおり、日立製作所も米遺伝子ベンチャーと相次いで提携していくほか、本業を生かしバイオインフォマティクス事業も展開している。 2000.6.27 日経産業新聞

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特定の遺伝子を機能させられる人工たんぱく質開発

東京農工大学が赤色光に反応し特定の遺伝子を機能させる人工たんぱく質を開発した。光を受けて光合成する微生物「シアノバクテリア」のもつ特定のたんぱく質の構造を遺伝子改変し、赤色光にだけ反応するようにした。このたんぱく質は光を受けるセンサー部、遺伝子を働かせる酵素部、その間をつなぐ部分からなる。遺伝子のオンオフの切り替えを完全に制御し、実験では赤色光でなければ目的の遺伝子は働かなかった。医薬品や化合物を生産する微生物の開発に役立つ成果であり、今後は大腸菌や酵母など様々な微生物での応用を目指す。 2016.11.29 日経産業新聞

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無認定施設で勝手に新出生前診断

妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる新出生前診断について、日本産科婦人科学会の定める指針に反し無認定で実施している施設があるとして日産婦含む5団体が検査中止を求めた。指針では妊婦に検査の意義や結果を正しく説明するためにカウンセリングの体制整備を規定しているが、今回3つの施設でカウンセリングが不十分なまま検査したり、対象外の異常を診断したりしていた疑いがあるという。日本医師会会長は今回の状況は極めて遺憾であるとし、「一定の倫理的制御をもって検査すべきだ」と指針の順守を呼びかける。 2016.11.20 日本経済新聞

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遺伝子組み換え作物で、アレルギー反応を治療

大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターと東京慈恵会医科大学が、スギ花粉の成分を含む特殊なコメで花粉症の治療を目指す臨床研究を始めると発表した。遺伝子組み換え技術を使い、スギ花粉症の原因となる物質の一部を含んだコメを患者に半年間食べてもらい、症状が改善するか確かめる。食べ続けると体が徐々に花粉に慣れアレルギー反応がほぼ出なくなるとされており、動物実験では症状の改善が見られ、副作用もなかったという。 2016.10.28 日本経済新聞 夕刊

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