日本の地熱発電が十分に活用されていない大きな理由は以下の通りだ。
まずは自然公園法の問題だ。
自然公園法は国立公園、国定公園、都道府県立自然公園の優れた風景地の保護や生物多様性の確保を目的として制定された。特に地熱資源は国立公園の位置している場所にあることが多い。初期の規制では国立公園内の地熱発電は、自然環境保全の観点から厳格に制限されていた。特に国立公園の特別保護地区、1種特別地域では原則として地熱開発は原則禁止されていた。しかし、2012年には “原則開発禁止” ではあるが第2種特別地域、第3種特別地域の条件付きでの垂直掘削が容認された。さらに2015年では特別保護地区、第1種特別保護地区の地表部での開発は禁止であるが、傾斜掘削であれば第一種特別保護地区への開発は条件付きで容認された。それに付け加え、第2・3種特別保護地区については “原則開発禁止” との文言が外されることとなった。
その結果、2012年までの国立公園内での操業している地熱発電は0件であったが、2023年では15件にまで増えた。
しかし、自然公園内の特別保護地区の地熱資源量は700万kW、第1種特別地域では260万kW、第2種特別地域は250万kW、第3種特別地域は520万kWとなっており、自然公園内で国内の約80%を占めているので規制緩和が十分な効果を得られているのかは定かでない。
次に温泉との共生問題だ。
はじめに温泉事業と地熱開発は競合関係にあると場合が多いことだ。
地熱発電では地下の高温流体を利用するが、温泉でも同じ資源を利用するため、大規模な地熱発電所が稼働すると、温泉の湧出量が減少、温度が低下する可能性がある。また、調査段階を含め掘削を行うことで、地下資源が枯渇し圧力低下の要因になることが懸念されている。さらに、地熱発電所の建設や稼働で環境や景観に影響を及ぼすことがある。その上、温泉観光が経済基盤となっている地域では、これらが観光客減少させる可能性があることから温泉事業と地熱開発は競合関係になることが多い。
さらに、温泉地は温泉法という法律で守られていて、地下の熱水利用が温泉資源に悪影響を与えないように規制されている。また、温泉事業者からの「温泉の枯渇や品質劣化を引き起こす」との懸念が拭えなければ、開発の合意を得ることが難しくなる。
実際に2002年に熊本県小国町の地熱発電開発計画は「温泉枯渇の懸念が拭えない」とし、地元住民の合意を得られずに頓挫していることがあった。
最後に経済的な課題だ。
地熱発電は初期投資が他の再生可能エネルギーと比べ高額であることが課題である。太陽光発電は約23.9万円/kW、陸上風力発電は34.7万円/kW、それに比べて地熱発電は170万円/kWと高額なことがわかる。しかし、地熱発電は24時間運転可能で、天候の影響がないため安定したエネルギー供給が可能な重要な資源の一つと考えられている。
しかし、上記以外にも費用はかかり、地下資源の調査では地下1000〜2000メートルを掘り下げ、蒸気の噴出量を確かめる必要があり、この工程だけで10億円以上の調査費用が必要となり、開発初期段階での成功率は約3割と言われている。また、掘削費用の3分の2を補助する制度があるが、失敗した場合は残りの費用が企業負担となり投資リスクが高いのが現状だ。
以上の課題に対し、どのような解決策が考えられるのか、次章ではその具体的な方策について論じる。