第五章 直近のヨーロッパの動き

この章ではEU内の動きと英国内の動きについて記述する。

第1にEU内の動きについて記述する。

欧州連合(EU)は2023年3月25日、2035年にガソリンなどで走るエンジン車の新車販売をすべて禁止するとしてきた方針を変更し、再生可能エネルギー由来の水素と二酸化炭素からつくられる合成燃料「e―Fuel(イーフューエル)」を使うエンジン車の新車販売は、35年以降も可能にすると表明した。

ここで2023年の新車販売台数を調べてみる。

欧州自動車工業会(ACEA)によると、欧州連合(EU)27カ国の2023年1-9月期の新車販売台数は794万台と、前年同期比で16.9%増加した。半導体の供給制約が緩和したことなどから、新車市場そのものは回復が続いている。この実績に基づけば、2023年の新車販売台数は4年ぶりに1000万台を超える見込みである(下の図)

動力源別に新車の販売台数を確認すると、1-9月期の新車のうち、首位はガソリン車(288万台)であり、全体の36.2%を占めた。ハイブリッド車が25.2%でそれに続き、さらにディーゼル車(14.1%)、EV(14%)となった。EVの新車登録台数そのものは111万台と、前年同期から55.2%も増えており、好調である。

すでにEU27カ国のEVの市場規模は年間150万台レベルまで拡大しており、ディーゼル車の市場をしのぎつつある。一方で、ハイブリッド車も200万台と前年同期から28.8%増加し、堅調だった。排ガス規制の強化を受けて、自動車メーカー各社がハイブリッド車の販売を強化したことが、堅調の主な理由である。

このデータだけ見ると、ヨーロッパのEV市場は順調に拡大していると評価できるが、一方でヨーロッパの自動車メーカー各社は慎重な姿勢を強めている。ドイツ最大の自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)は、中東欧で稼働を予定していたメガファクトリーの建設を延期すると明らかにした。ヨーロッパ域内でのEV需要が想定よりも下振れしていないことを理由に挙げた。

また政府による補助金の減少が行われた。その影響でVWは2023年9月にも、ドイツ東部のザクセン州にある2つの工場で、10月に約2週間EVを減産すると発表した。うちツウィッカウ市の工場では、有期雇用の従業員の整理を進めるなど、「需要の弱さ」を理由にEVの生産体制をかなり見直した。従来型のガソリン車やディーゼル車に比べると車体価格が高いEVにとって、補助金の打ち切りは、消費者にとっては実質的な値上げに等しい。さらに欧州銀行(ECB)がインフレ対応で金利を引き上げたため、カーローンの金利も高くなった。結果としてEV需要が圧迫されている。

他方、EVが普及するために必要な「充電ポイント」もまだまだ不足している。ドイツ連邦ネットワーク庁によると、ドイツ国内の充電ポイントは2023年8月1日時点で10万1421基だった。今年上半期に1万3302基も増えたとはいえ、急速充電が可能なポイントは1万9859基にとどまっており、EVのさらなる普及を図るには不十分な水準である。EVの普及が進むドイツですらこの状況であるため、所得水準が低い南欧や東欧の国々の場合、充電ポイントの建設はさらに遅れており、EVの普及が進みにくいのが現状である。

第2に英国の動きについて記述する。

英国では、グリーン化の手綱を緩める動きが出てきている。リシ・スナク首相は2023年9月20日に会見し、ガソリンやディーゼルを動力源とする内燃機関車の新車販売禁止を、目標であった2030年から5年遅らせ、2035年にすると発表した。EVによる初期費用が高いことや、充電インフラを整備するにも時間が必要であることを理由に挙げた。また2035年以降も既存のガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車の中古車販売を認めると宣言した。

ヨーロッパでは、EVの新車登録台数そのものは111万台と、前年同期から50%以上増えており好調であるが、政府によるインセンティブの減少や、カーローン金利の上昇により、EV需要が圧迫されているのが現状である。またEVの普及が進むドイツですら充電ポイントが不足している。

英国はガソリンやディーゼルを動力源とする内燃機関車の新車販売禁止を遅らせるなど、EV導入に時間がかかっているのが現状である。

このように、早期のEV一辺倒の政策は、EUや英国でさえ難しくなってきた現状を鑑みるに、カーボンニュートラルの実現に向けてHVやe―Fuelが重要視されるようになってきた。

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