書評『クロスボーダーM&A成功戦略』

本書はクロスボーダーM&Aを成功に導くための戦略を、データや事例を用いて解説し、今後の日本企業が進むべき道筋を述べた一冊となっている。全5章で構成されている。

1章『クロスボーダーM&A 勝者の条件』では、国内市場が緩やかに縮小していき、新興国が急成長し競争環境が変化していく中で、日本企業はM&Aを活用した覇権争いに参加せざるを得ない状況だと説明している。また本章ではクロスボーダーM&Aの成功を「M&Aの全プロセス(M&A戦略、ディール実行、PMI)を通じて、中長期的なシナジーと短期的なリターンを確保し、利害関係者の評価を得ること」と定義している。

2章『戦略なきM&Aは失敗する』では、M&A戦略について説明している。将来のコアビジネスを明確にし、その強化を目指して買収と非中核事業を売却し成長するサイクルを「M&Aの好循環モデル」と呼び、このモデルを如何に生み出していくか説明している。

3章『予測不能な海外企業とのディールをどう成功に導くか』では、DD(対象について詳細に調査すること)によってターゲット企業に対する期待と現実の差を明確にする事やシナジーを定量化することで、初めて事業計画とシナジー計画を作ることができるなどDDの重要性を述べている。またこれらの計画は内外の利害関係者へのアカウンタビリティーにも繋がる。

4章『ポストM&Aの成功を阻む2つのギャップ』では、PMIを進めていく上で、計画のギャップ(買収前に立てた計画と買収後の事業計画の乖離)と実行のギャップ(計画と実績の乖離)に陥り失敗する危険性について述べている。このような問題が起きる原因に、計画から実行までの全工程を一貫して見る責任者がいない事や、ガバナンス体制の不十分などが挙げれられている。

5章『買収側のグローバル改革こそ成功の本質』では、クロスボーダーM&Aを行う上で、買収先のガバナンスと同様に、日本企業自らもグローバル化に向けた変革が必要であると述べている。筆者は、買い手売り手両者の強みを組み合わせ、新たなものを創造する「複合企業」をコンセプトとし、経営体制を構築するべきだと唱えている。

M&Aの失敗の側面だけでなく、成功の側面を知りたいと思い本書を選んだ。グローバル化が急速に進む時代だからこそM&Aによるコアビジネスの強化の必要性や、事前の情報取得や買収後の戦略が成否を大きく分けると分かった。今後は、第1章で述べられていたクロスボーダーM&Aの必要性についてより深く調べていきたいと思う。

松江英夫・篠原学 著   ダイアモンド社  20121213日発行

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