p70-76 要約

2・2 新装学習の登場

<パターン認識と第三次AIブーム>
 第五世代コンピュータ開発プロジェクトの失敗もあって低迷していた人工知能研究に、2010年半ばからふたたび注目が集まり、第三次AIブームが到来したといわれている。ビッグデータ処理が人力の限界を超え、必要性と期待が高まったことや、またビッグデータと人工知能との間にある工学的に見て本質的な関連性から、両者は今後、一体不可分の技術になっていくだろうと考えられる。
 第三次人工知能ブームのキーワードは「統計(ならびに学習)」である。つまり、データを統計的に処理することによって、パターンを認識してしまおうというわけだ。これは厳密な論理処理をおこなう機械であるコンピュータにとって苦手であった、曖昧な対象を大雑把に識別し分類する作業(パターン分析)をやらせるための工夫である。機械翻訳を例とすると、用例をたくさん集め、統計処理して使用頻度や共起関係を比べることで、適切な訳語を選べるのではないかという考え方だ。
 この新たな人工知能のアプローチは、前章で述べたビッグデータ分析と酷似している。両者ともデータの統計的な相関関係の分析をベースとし、統計処理に基づく分類によって認識するわけである。だが、こういうアプローチの元では、厳密な論理処理からの逸脱が巧みに隠されてしまう。第二次人工知能ブームでは、厳密な論理と曖昧な知識の矛盾によって挫折したのであった。だから、もう厳密論理の徹底は諦め、「だいたい合っていればいいだろう?」と居座ったことが、第三次AIブームへの道を開いたのである。ここでもビッグデータの三特徴「全件処理」「質より量」「因果から相関へ」を思い返すとビッグデータと人工知能の密接な関係がわかるだろう。
 しかしながら、統計や確率の理論に基づく推定の有効性は、やはり完璧とは言い切れない。理論そのものは無論正確かつ厳密であっても、それを現実の場面で応用すると、結果的に曖昧で不確かな結果を導いてしまう。確率論を現実問題に適用するための方法で、「ベイズ分析」というものがある。これは一般にデータを収集しながら問題となる事象が起きる確率を推定していこうという実践的な方法だ。ここでいう人工知能もやはり、人間がやっているパターン認識をデータの統計処理で置き換えたもの、と言ってよいのである。
 

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