第四章 カーボンニュートラルの観点からEVの問題点

第一にEVに使われる電力の発電源の炭素排出の問題点である。

EVは道路上での走行時にはゼロエミッションだが、その環境への影響は電力の発電源に大きく依存する。電力が化石燃料に依存している場合、EVの使用はカーボンニュートラルではなく、炭素排出が存在することになる。カーボンニュートラル実現のためには、すべての電力が、再生可能エネルギーによって作られなければならない。そこで日本の発電割合を見てみると、2022年度の日本の発電割合は、以下の通りになっている。

スクリーンショット 卒論1

※引用:https://www.isep.or.jp/archives/library/14364#_ftn2

日本の電源構成を見ると、70%以上が石炭・LNG(液化天然ガス)・石油などの化石燃料によるものであることがわかる。一方、水力や太陽光・風力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギーが占める割合は22.4%である。再生可能エネルギーの割合は増えているものの、依然として化石燃料に強く依存している状況だといえる。そのため火力発電の電力を使うことになり、EVを導入しても走行中はゼロエミッションを実現できるが、トータルで見ると炭素が排出されていることになり、カーボンニュートラルの実現がなされていない。

私はEV化によってカーボンニュートラルを実現するためには、すべての電力をクリーン(再エネ)にする必要があると考える。しかしながら日本で全EV化を実現させるとなると、クリーンな電力だけでは充電するための電力が不足してしまう。夏と冬はただで電力不足なのが日本である。全EV化のためには、電力ピーク時の発電能力を現状より10~15%増強する必要があり(その能力増は、原子力発電だと10基、火力発電だと20基程度に相当する)、また充電インフラコストが約14兆円から37兆円必要になり、国家のエネルギー政策の大変化なしには達成が難しいのが現状である。

第二に電池製造における問題点である。

電気自動車用の大容量バッテリーの製造過程でもある程度環境に影響を与えている。EVのバッテリーには、主にリチウムイオン電池が使われている。リチウムイオン電池にはメリットとデメリット両方が存在する。

メリットは、リチウムイオン電池は環境面にも配慮された電池であることである。カドミウムや鉛などの有害な物質を材料とする2次電池もあるが、リチウムイオン電池はそうした有害物質を含まないため、環境にも良い電池として注目を集めている。さらに、化学的な変化を利用しないために、副反応による劣化がなく長期間安定した性能を維持できるという長所もある。

デメリットは、原材料の調達が難しく、電池製造の過程で二酸化炭素が排出されることである。 リチウムイオンバッテリーの製造に必要な主要な材料はリチウム、コバルト、ニッケルである。リチウムの供給元は南米のチリ、コバルトの供給元はほとんどがコンゴ民主共和国である。またNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が把握している限りにおいては、コバルトは20~30年で枯渇するといわれている。原材料を豊富かつ安定的に入手できない限り、バッテリーの価格は下がらない。そしてリチウムイオンバッテリーは人体に有害な物質(発火した場合、水素、二酸化炭素、エタンやメタン等の炭化水素系に加えて、微量のフッ化水素や一酸化炭素が放出される。)を含み、火災や爆発の危険性もあり、過充電並びに過放電などで、発火リスクがある。また電池製造のためのプロセスにはエネルギーが必要であり、そのエネルギー源が化石燃料である場合、CO2排出が発生する。金属メーカー大手のプロテリアルは、リチウムイオン電池の部材の新たな製造技術として、原料のニッケルを使って「正極材」と呼ばれる部材にする際に、複数の工程を省く方法で従来製法と比べて、出発原料由来のCO2排出量を30%超削減することに成功した。しかしながら二酸化炭素排出量がゼロになったわけではないため、カーボンニュートラルの実現にはまだまだ及んでいない。

以上のカーボンニュートラルの観点から、電力の発電源や電池製造の二酸化炭素排出問題によって、ライフサイクル全体で見ると二酸化炭素が排出されており、カーボンニュートラルの実現が難しいものであるとわかる。

次章では、直近のヨーロッパの動きについて触れ、EV化が停滞している事実について記述する。

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