書評 合成生物学の衝撃

本書は、一章では合成生物学の説明、二章、三章では合成生物学でどのような技術が使われているのかを述べ、四章から七章に渡り合成生物学が軍事利用される可能性を示唆し、八章では倫理観に基づく不安、九章では人工の生命体であるミニマム・セルの作成の成功とそれに対する期待と不安を述べ帰結している。合成生物学とは、生物システムを理解するために、生物を一から作ることで理解し、生物学を工学化することを目的とする学問である。そのために、クリスパーと呼ばれるゲノム編集技術を用いて、生き物が生存する最小単位であるミニマム・セルを作る必要がある。この合成生物学を用いれば、マラリアやジカ熱蔓延の原因を解決できるなど医療でも役に立つ。しかし、それだけでなく生物兵器の製造も可能になり、軍事利用される可能性もある。実際、ソ連時代に生物兵器が研究された歴史がある。また、当然として倫理的な問題も存在する。このような懸念がされる中、ある科学者がミニマム・セルの作成に成功した。この技術が適切な目的のもと使用されるよう、社会全体で議論を交わしていく必要があると論じている。

本書で、新技術には二面性があることを改めて認識することができ、これに注意しながら新技術を分析することが大事であることを学んだ。また、ひとつの技術としてクリスパーを今まで学んできたが、学問と関わりがあったことを知り、知識の厚みにつながる一冊であった。これから論文を作成するにあたり、文章構成などとても参考になった。

合成生物学の衝撃 須田桃子著 文藝春秋

 

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