書評「介護 現場からの検証」

本書はケアマネジャーである著者が、実際に介護サービスの利用者やその家族や介護従事者などの介護に関係する人へのインタビューを行い、それを元に介護現場で起きていることをまとめたものである。
著者は2006年から始まった改正介護保険制度を特に問題視している。この改正は「持続可能な介護保険制度の構築」をキャッチフレーズに、従来の枠組みを大きく変えた。改正内容としては、軽度の要介護者による生活介助サービス利用が介護保険財政を圧迫し、利用者の要介護の状態を悪化させたとして、介護予防という新しい理念を導入した。介護予防とは高齢者が要介護状態になることを予防し、自立へ向けた支援をするというものである。これが適応されるのは8段階の認定区分のうち、要支援1、要支援2と判定された人である。これらの人は要介護1〜5の人とは支援の内容が異なり、在宅サービスでは総量規制がかかり、結果として高齢者にとって複雑な制度となってしまったという。
また最終章では、現在の介護保険制度は国の権限が強まってしまっていると述べ、今後は国は財政優先の施策から脱却し、国から地方自治体へと権限を移譲させていくべきだと論じている。
介護問題について幅広く見渡すために本書を選んだ。実際に介護を受けている人や携わっている人へのインタビューが多く載っているので、介護現場の実態をイメージしやすかった。介護保険制度の見直しや、労働環境の改善など様々な問題が折り重なっていることを改めて理解した。

結城康博 著
2008年 岩波新書

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