異種移植

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2024年06月15日朝刊2総合002ページ , 02535文字

「異種移植、世界が着目 提供者不足、ブタの臓器をヒトへ―― 遺伝子改変、日本でも

日本国内で今年2月、ヒトへの臓器移植をめざして3頭のブタが誕生した。米国では2年前に、重い心臓病の患者にブタの心臓が移植された。臓器提供者の不足が課題となるなか、世界的にブタからヒトへの「異種移植」の競争が激しくなっている。(野口憲太、後藤一也、合田禄=ワシントン)

全身の毛はまだ薄く、自力で立てない弱々しい姿――。その3頭のブタは一見、ふつうのブタの赤ちゃんと変わらない。
違っているのは、臓器をヒトに移植するために、ゲノム編集の技術を使って遺伝子が改変されていることだ。
日本で初めてとなる、ヒトへの移植までを想定した「遺伝子改変ブタ」の誕生――。「日本での臨床応用に、ようやく現実味が出てきた」。ブタを誕生させた明治大の長嶋比呂志教授はそう話した。
日本では、移植を待つ人は約1万6千人いるが、受けられるのは年間600人ほど。海外と比べても圧倒的に少ない。
注目されてきたのが、動物の臓器を使った「異種移植」だった。なかでもブタに熱い視線が注がれた。臓器のサイズがヒトと似ているなどの特長がある。
拒絶反応が課題だったが、ねらった遺伝子を改変するゲノム編集技術の登場が転機になった。今回のブタは拒絶反応を抑えるため、10個の遺伝子が改変されている。長嶋さんが創業したポル・メド・テック社(川崎市)が、米国のeGenesis(イージェネシス)社からブタの細胞をゆずり受け、クローン技術を使って日本で誕生させた。
このブタを使って異種移植の実現をめざす国内の研究チームも立ち上がった。実現への「第一歩」として、遺伝子改変ブタからサルへの腎臓の移植実験を計画。今秋にもスタートさせるべく準備を進めている。

■米…心臓移植実施 独…研究本格化へ 中…肝移植を発表
異種移植への世界の注目は、高まっている。
きっかけは2022年1月、米国メリーランド大で行われた末期心不全の患者への心臓移植だった。60日後に患者が亡くなるまで、心臓は拍動。世界中で報道され、大きな衝撃とともに受け止められた。同大では23年9月にも、2例目となる心臓移植を実施。患者は40日後に亡くなった。
今年3月には、米マサチューセッツ総合病院で、ブタの腎臓が62歳の患者に移植された。患者は順調に回復し、4月に退院した。しかし、病院は5月、この患者が亡くなったことを公表。「移植の結果だと示すものはない」とコメントを出していて、死亡と移植との関連はわかっていない。
脳死となった人にブタの臓器を移植する研究を含めて、米国では21年以降、少なくとも13例の異種移植が実施された。まだ、正式な臨床試験としてではないが、「実績」を積み上げている。
米国だけではない。異種移植はすでに、「世界競争」の様相を呈している。
ドイツでは、12の大学や研究機関からなる共同研究が10年以上進められてきた。今後、心臓移植に注力した新しい国際プロジェクトに移行。研究が本格化する見込みだという。
5月には、中国・安徽(あんき)省の安徽医科大学第一付属病院が、遺伝子改変ブタの肝臓を、肝臓がんの71歳の患者に移植したと発表した。急激な拒絶反応はみられず、移植されたブタの肝臓から胆汁がつくられていることも確認できたという。病院は発表文で、「世界で5番目の生きた人への異種移植であり、中国の科学者の肝移植技術はすでに世界の最先端にある」としている。

■臨床応用へ、課題山積
移植医療に長年携わってきた立場からはどう見えるのか。1999年に、臓器移植法のもとで日本初の心臓移植に携わった千里金蘭大(大阪府)の福嶌教偉(のりひで)学長は、異種移植の可能性や課題を探るためにも「研究は進めていくべきだ」としたうえで、「現在の心臓移植は確立された医療で、まだ実験段階の異種移植にすぐ取って代わられると考えるのは、まちがいだ」と指摘する。
米国の患者への移植はすべて、ほかに選択肢がない場合に、命の危険がある患者に未承認の医薬品を使う制度「拡大アクセス」で行われた。新しい医療の安全性や有効性を確かめるための、正式な臨床試験ではない。
移植直後の激しい拒絶反応は遺伝子改変で回避できても、その後も起こり得る拒絶反応を防ぐには免疫抑制剤が必要だ。2年前の心臓移植では、米国でも未承認の強い免疫抑制剤が使われた。また、患者の体内からはブタ由来のウイルス感染の所見もみられた。異種移植が新たな医療として成り立つには、まだ課題が多く残されている。
国際異種移植学会は2003年、臨床試験に進むには、十分な実験データや国などによる適切な監督と承認が必要だとする見解を発表。「適切な科学的データが示されることなしに、成功が約束されたと解釈されるような発言は慎まなければならない」とも指摘した。
世界保健機関(WHO)も04年の総会決議で、「国の保健当局が所管する、効果的な規制と監視メカニズムが整備されている場合」に限って異種移植を実施するよう求めている。
日本には15年にまとめられた厚生労働省の指針がある。ただ、「膵島(すいとう)移植」という、糖尿病患者にインスリンをつくる細胞を移植する手法に焦点をあてていて、臓器そのものの移植や、遺伝子改変したブタを使うことは想定外だ。
患者の命を救うため、動物の命を奪うことが許されるかといった倫理面での議論も尽きない。
移植と医療倫理に詳しい塚田敬義・岐阜大教授によると、ブタはインスリン製剤や心臓の人工弁など医療用として使われてきた歴史もあり、移植のために使うことは許容できるという考え方が、国際的な傾向だという。
とはいえ、人それぞれに信じる宗教や考え方の違いもある。ブタの臓器でも移植を受けて生きたいという人もいれば、「ブタの臓器を移植してまで」と考える人もいるだろう。
塚田さんは「医療倫理は、白か黒かはっきりするものではないし、すべてが多数決で決まるものではない。研究者や医療に携わる人たちは、社会に向けて説明し、理解を得ようとすることを、絶えず続けていかなければならない」と話した。

ChatGPT
日本では遺伝子改変したブタが誕生し、ヒトへの臓器移植の実現が見えてきた。米国では既に心臓移植が行われており、世界的にブタからの異種移植が進行中。ブタの臓器サイズがヒトに適している点が利点であり、遺伝子編集技術が克服策として期待されている。しかし、免疫反応の問題や倫理的議論も根強く、国際的な規制と監督が今後の展望に影響することが指摘されている。

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