書評「製造業DX 入門編」

筆者の天野眞也は製造業にテクノロジーの力を活用し、今までにない新たな価値や仕組みを提供することを「Industry Tech」と定義し、このIndustry Techをコンソーシアム(複数の企業が「共同企業体」を組成して、一つのサービスを共同で行う取引) 「 Team Cross FA(チームクロスエフエー)」として提供している。そしてこのチームクロスエフエーでは「Brand New Japan.」というビジョンを掲げ、製造業の活性化を起点に、日本を再び誇れる国にするべく、日々活動を行っている。
1デジタル技術がもたらす変化
1ではデジタル技術によって我々の日常生活がどのように変化したかがまとめられており、デジタル化が広がることによって経験が言語化され、共有、活用、展開ができるようになってきており、かつては長い経験を積まないと難しいといわれていた職業に多くの人が就くことができ、個々の仕事はおろか社会全体の効率が上がってきている。筆者が長年携わっている製造業の現場でもかつては特定の人しか操作できなかった装置を若手が操作できるようになったり、ベテランしか判断できなかった機械の故障予知をセンサとAIの組み合わせで判定できたりするようになってきているようだ。
2製造業におけるDXとは
2ではデジタル化の現状からデジタル化の必要性やDX実現に必要なことについてまとめられている。デジタル化によって「未来予測」とその予測結果と制御技術を活用した「自律化」が実現できるようになると、製造業の生産性が向上するだけではなく、DXを実現する一歩を踏み出すことができると筆者は主張している。未来予測は例えば過去及び現在の膨大な気象情報の中から天気を予測する天気予報のこと。自律化は速度センサなどのデジタルデータを解析し、車を制御する自動運転を例に出すと分かりやすい。工場においてはこの自律化の実現がデジタル化の大きなメリットであり、逆に言えばデジタル化なしには自律化できないということである。
デジタル化が実現すれば「生産性の向上」や「品質の向上」、「人手不足の対応」「技能伝承」「働き方改革」などの課題が解決される。そして最終的にはデジタル化が、ダイナミック・ケイパビリティ(環境や状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力)の強化や、新事業の創出といった新しい価値の創出をもたらすだろう。
3デジタルファクトリーとそのインパクト
3ではデジタルファクトリーが第四次産業革命をけん引する工場でもあり、製造業のDXを実現するための核となる工場にもなるとし、従来の工場との違いやデジタルファクトリーのメリットについて述べている。
デジタルファクトリーとはデジタルマップとリアルタイムデータ、そしてデータのフィードバックが可能な生産設備や人が連携し、自律制御を実現した工場である。自律制御によってリソースの最適化が行われ、環境変化に合わせて最適化された生産と工場運営を実現するものである。
デジタルファクトリーにおいては人々は自動化が難しい業務に就くことになり、機械や人との役割分担ができるようになる。よく「デジタルファクトリーが進むと仕事が無くなる人がでてくるのでは?」という質問が出てくるが、新たなデジタルファクトリー管理、デジタルファクトリー構築、どうしても自動化できない難易度の高い仕事といった業務にシフトするだけであると筆者は語っている。かつて洗濯機が普及し始めた時に町の洗濯屋さんが無くなると騒がれたらしいが、実際にはクリーニング屋さんとして、現在でも多くの企業が営業を続けており、さらにライフスタイルの変化から大型コインランドリーが繁盛しているという話もあるため、デジタルファクトリーの実現=雇用の減少とはならない。
4デジタルファクトリー構築のステップ
4ではデジタルファクトリー構築のステップをプランニング、シミュレーション、リアルファクトリー構築の3つに分け、それぞれのステップで何をすべきかが解説されている。プランニングで最初に実行するべきなのは「生産戦略」のグランドデザインであるとし、多くの企業では「ビジョン」「ミッション」などは掲げているが、「生産戦略グランドデザイン」までは描けていないと指摘する。将来自社はどの部分を強みとして勝負するのか、そのためにはどんな製品を開発し、どんなコンセプトで生産するのかなどを言語化していく必要がある。
シミュレーションでは実際に設備を作りこむ前にこれらをデジタル上でシミュレーションし、検証、修正していく。例えば自動化シミュレーションでは「自動化・ロボット化構想」に対応するシミュレーションモデルを作り、その自動化が適切なものかを検証していく。
5日本の強みとDXがもたらす未来
5ではなぜ日本が製造業DXを実現できるのかやDXを推進することで新しい産業が生まれるのかなどについて述べられている。残念ながら日本はDX化が遅れているのは事実であり、全社戦略に基づくDX推進の変革を実施する段階への移行がこれから始まるという段階で、着手さえされていない企業が大半というアンケート結果も存在する。しかし製造業である以上「ものづくり」が必ず関係してくるため、「ものづくり」 =「製造技術」と「情報化技術」をいかに連携させるかが重要になってくる。日本は「製造技術」で間違いなく世界トップクラスの実力をもっており、それに「情報化技術」を組み合わせることで製造業DXを強力に推進していくことができると筆者は主張する。製造業DXに通ずるものとして筆者はトヨタの高級車「センチュリー」や人気漫画「ワンピース」を例に挙げている。ストーリー作りとそれを実行する力は、日本文化に根差したものであり、これらに最新技術が組み合わされることで、日本式の「製造業DX」が実現できるのである。
今回は入門編を読んだが、入門編というタイトルからわかるようにこの本には他のシリーズ(実践編とカスタマーサクセス編)がある。実践編では実際にどのようにDXを導入していくか、カスタマーサクセス編では顧客の製造業DXに必要な視点や考え方が解説されている。卒論ではこちらの2冊も参照しながら製造業DXの具体的な方法やそれによって生じる働き方の変化などについて論じていきたい。
天野眞也「製造業DX 入門編」
2020年9月9日

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