書評「アフターデジタル」

本書ではデジタルトランスフォーメーションを変革の武器として使うことを想定して書かれている。アメリカの二番手としてあぐらをかいている日本の状況に対して危機感を抱いた筆者が世界全体から見たデジタルの変化及びビジネスにおいて必要な視点と行動について解説している。
著者は藤井保文(やすふみ)と尾原和啓(かずひろ)の2人。藤井さんは2011年にビービットという企業にコンサルタントとして入社し、様々な日本企業の幹部に対して中国ビジネス環境視察合宿(チャイナトリップ)を行っていたが、現在は現地の日系クライアントに対し、モノ指向企業からエクスペリエンス指向企業への変革を支援する「エクスペリエンス・デザイン・コンサルティング」を行っている。
もう一方の尾原さんは先述のチャイナトリップに参加し、藤井さんがもっとも意気投合したと話すIT批評家である。NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援やリクルート、Google、楽天などの事業企画、投資、新規事業に従事し、経済産業省対外通商政策委員なども歴任している。
第一章「知らずには生き残れない、デジタル化する世界の本質」
第一章では日本と世界のデジタルトランスフォーメーションの状況について事例を交えて解説されている。膨大に蓄積されたデータを基にサービスが生み出されるのではなく、社会基盤そのものが再構築される=デジタルによる社会システムのアップデートが起きるような時代に備えて企業がやるべきことは何なのかを見出すヒントが書かれている。
第二章「アフターデジタル時代のOMO型ビジネス〜必要な視点転換〜」
第二章ではオンラインに移行した世界でビジネスはどう変化していくのかについてまとめられている。これまでリアルとデジタルの認識は「オフラインのリアル世界が中心で、付加価値的な存在として新たなデジタル領域が広がっている」という図式だったが、IoT、センサーが偏在し、現実世界でもオフラインがなくなるような状況になると、リアル世界がデジタル世界の一部となり、人は常時デジタル環境に接続される状態にさなる。つまり企業側の視点から見てみるとリアル世界は密なコミュニケーションが取れる貴重な場となるため、デジタルが基盤となるという視点に立った上で戦略を組み立てていける思考が必要不可欠になる。
その思考法が「OMO(Online Merges with Office)」である。これまではインターネットをどのようにビジネスに活用していくかが重要であったが、今はオフラインが存在しない状態を前提としてビジネスをどうしていくかを考えていく必要がある。いかにアフターデジタルという考え方を理解し、データを活用できるかが企業の命運を分けるのである。
第三章「アフターデジタル事例による指向訓練」
第三章ではアフターデジタルに切り替わった時の重要な論点を挙げ、アフターデジタルという新しい世界観から従来の価値観を見るという切り口で世界の事例を取り上げている。欧州では個人データとプライバシーの保護は基本的人権の1つとして考えられ、2018年5月からは事業者を対象としてGDPR:General Data Protection Regulation(EU一般データ保護規則)の施工が始まっている。技術的な進歩によってサービスが良くなるとデータが流動化し、そのデータを悪用する人が現れるかもしれないという懸念からGDPRのようなデータ規制が生まれたのである。しかし筆者はデータの保護だけでなく、新しい技術やサービスを生み出す「緩和」にも目を向けなければ、本質的な理解にはならないと警告している。
一方で、中国では「国民はデータを提供し、国が一括管理をして国民のために使う」という考え方が当たり前になってきており、データを提供するという考え方が根付いている。このような中国の2015年からのデジタル発展は規制緩和に支えられており、例えばセグウェイのような新しい乗り物が走ることにしてもまだ決められていないのでokとなる。この緩和を特定の業界において実施したのが「インターネットプラス」という政策で、中国の目覚ましい進歩を生んだ背景として語られている。
第四章「アフターデジタルを見据えた日本式ビジネス変革」
第四章では日本が取るべきデジタルトランスフォーメーションの1つの道筋を伝えている。アフターデジタル時代のビジネス原理として1つ目に(1)高頻度接点による行動データとエクスペリエンス品質のループを回すことをあげている。便利かつ信頼できる企業であればデータを提供することに提供はないが、データを提供することで、売りつけてくる企業にはネガティブなイメージを持ち、接点が無くなっていくため、顧客を騙すようなサービスは高頻度接点と高付加価値をもたらすアフターデジタル時代には淘汰されていくだろうと言われている。2つ目は(2)ターゲットだけでなく、最適なタイミングで、最適なコンテンツを、最適なコミュニケーション形態で提供することである。高頻度データ把握によって、ユーザーが望むタイミングを知ることが可能になり、どのようなコンテンツが最適なのかを過去の行動と現在の状況から把握でき、その人の性格や特性に適したコミュニケーション方法で提供できるようになると言われている。
本書を通じてデジタルトランスフォーメーションがなかなか進まない日本の状況に改めて危機感を感じたが、来春からデジタルトランスフォーメーション系の部署で働くにあたってのヒントも得られたと感じた。卒論では製造業にピンポイントを当てて書く予定であるため、製造業関連の本も探して今後執筆を進めていきたい。
日経BP「アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る」
2019年3月25日

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