書評 『そうだったのか!中国』

近年、急速な経済成長で世界に圧倒的な存在感をみせている中国。日本と中国との二国間の関係は絶えず変化し、新聞やテレビ等のメディアでも中国に関する報道が連日なされている。普段何気なく見聞きすることの多い中国であるが私たちはこの隣国についてどれくらいのことを知っているだろうか。私たちは、中国について古代から近代までは学校の世界史でも学ぶ。しかし、現代史についてはそのカリキュラムの都合上、学ぶ機会は決して多くない。日本の多くの若者が中国現代史についてあまり知らないのである。本書はそうした人でも理解のしやすいように、複雑な中国現代史についてなるべくわかりやすく、噛み砕いて解説した、中国という国をより深く知るための入門書となりえる書である。

第一章では今なお話題になることの多い反日運動についてなぜそのような運動を起こすのか、その源流はどこにあるのかについて解説している。

第二章〜五章では毛沢東による共産党の誕生、中華人民共和国の建国、実権を握った毛沢東の愚策「大躍進政策」と奪われた権力を取り戻すために民衆を煽って起こされた奪権運動「文化大革命」、毛の死後の混乱について毛沢東という人物に視点を当てながら解説している。中国現代史はこの毛沢東という人物抜きには語れない。彼は優れた軍事家・戦略家であり、中国という現在ある国の基礎を形作った立役者であったが、同時に建国後の彼の独裁政治は混沌を極め、多くの惨劇を引き起こした。彼がもたらした負の遺産は今なお現代の中国に影響をもたらし続けている。

第十二章では天安門事件について取り上げている。天安門事件は1989年6月4日に北京市内の天安門広場にて中国の民主化をもとめる運動を起こしていた学生・市民たちに対して軍隊が武力行使し、多数の民衆を虐殺した事件である。本章ではこの事件が起きるにいたった経緯、その後の中国政府の対応について深く解説している。

その他の章では鄧小平による新たな改革路線、一人っ子政策のあらましと影響、香港の「回収」と台湾への「解放」、チベット問題、進む軍備拡張、そして開き続ける経済格差など中国現代史とともに、現在の中国が抱えているさまざま問題を、ひとつの章ごとに分けて丁寧に解説している。

この本を選んだ理由は、なにかとニュースなどで取り上げられる機会の多い中国という国について、ニュースをより深く知るためには過去に何が起きていたのか、その報道の背景には何があるのか、そして中国は今にいたるまでどんな歴史を歩んできたのかについて知る必要があると思ったからである。この本を読んで、中国の現代史というあまり知らなかった分野の概要を掴むことができた。また現在中国ではどんな問題が起きているのかも新しく学ぶことができた。それと同時に「歴史を直視せよ」と日本に対して頻繁に主張する中国政府に対して疑問を思った。なぜなら中国共産党公認の歴史には、共産党によって隠蔽・改竄されたものが多数あり、そうした歴史の多くが中国国内ではタブーとされていると知ったからである。文化大革命しかり天安門事件しかり。
「歴史を直視せよ」その言いや良し。私たちがもっと歴史を学ぶ必要があることは間違いない。しかし、中国は自国の歴史を直視することができているのか。その言葉を自らにも問いかけるべきであると感じた。

池上彰(2010)「そうだったのか!中国」集英社文庫

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