【書評】水の未来 -グローバルリスクと日本-

本書は、水についての問題、国際社会の対応、貧困問題と水との関係、バーチャルウォーターと食糧安全保障、気候変動と前向きな管理について、以下第1章〜終章(第5章)で構成されいる。

第1章では、はじめに「地球の水の何が問題か」という疑問を提起し、水問題がグローバルリスクであることを筆頭に、水不足による機会損失や、汚染水とその回復の困難さ、国際間の水をめぐる問題を回答としている。また、ストックではなく、フローとして水資源をとらえ、「水不足は偏在しており、適切なガバナンスが足りていないことが理由だ」としている。

第2章では、筆者は水リスク管理の手法として“ウォーターフットプリント”(活動に伴う水の使用量)を紹介しており、そのウォーターフットプリントは人々が生産活動を行う中で、「どうすれば環境影響を小さくできるか」を的確に定量化するための道具(指標)であると主張している。

第3章「仮想水貿易から見た食糧安全保障」では、バーチャルウォーターについての解説や、「水・エネルギー・食料」の連関について例を挙げて主張している。また、第2章で述べた、「仮想水の輸入が必ずしも環境に悪影響を与えるとは限らない」旨を再び強く主張し、水不足のギャップを埋めるためには国際協調が重要であると述べている。

第4章「気候変動と水」では、気候変動は水循環の変動そのものであるとし、水を通じて人間社会に悪影響をもたらすとしている。また、これからの時代は気候変動対策を行うのではなく、リスクを的確に管理し、緩和と適応策を推進する時代であると述べている。

終章「未来可能性の構築へ向けて」では、危機感を強調した悲観的な環境問題への取り組みよりも、リスクを適切に見定め、上手に管理するという前向きな取り組みが良いとしている。持続可能な開発ではなく、持続可能性の構築という方法にシフトする時代が来ると筆者は考えている。

 

ここ2、3ヶ月「平成30年7月豪雨」や数々の台風などによって水害が多く起こり、気候変動について深く考えさせられた。ゼミでは新聞から様々な経済に関する記事を取り上げていたが、最近の水害に関するニュースを見て、「水」に関する社会問題についてさらに深く知りたいと思い、この一冊を選んだ。水に関する経済問題や社会問題については予備知識がなく、内容を理解できるか不安だったが、水問題に関する基本的な用語解説や政治・経済を前提とした様々な視点から書かれた本書は、これからの水に関する社会問題を考察し、学んで行く上で役立つものとなった。筆者の悲観的でなく、且つ楽観的でもない水問題に対する主張は新鮮で興味深かった。これからのゼミでの研究に役立てていきたい。

沖大幹 著 2016年 出版 岩波書店

 

カテゴリー: 新聞要約   パーマリンク

コメントを残す