卒論

現在の問題提起

しかし、ジャパンアズナンバーワンと呼ばれる時代はそう長く続かなかった。失われた20年と呼ばれている1990年から2010年までの間、日本企業は市場シェアの縮小と利益率の伸び悩みに苦しんだ。グローバル化とデジタル革命という新潮流が国際ビジネスの世界を変容させ、それに適合することができなかったためである。なぜ日本企業は適合することができなかったのか。それは1979年には高く評価されていた終身雇用を特徴とする日本的経営が原因の一つだった。

①グローバル化への悪影響
1989年にベルリンの壁が崩壊すると国境が開かれ、多くの国が市場を開放しグローバル化が進んだ。この頃欧米の競合企業はブラジルやロシア、インド、中国といった新興経済国相手に戦略を転換し、新興諸国では海外直接投資によって国内産業が力を増していった。一方の日本企業は北米、西欧、日本といった従来の大市場に重点を置きすぎていたためグローバルな成長に遅れをとり、かつての優位性を失っていった。このようにグローバルな戦略に遅れたのには経営上層部に問題がある。日本企業では終身雇用制をとっているために社内から昇進したCEOがほとんどでありその平均年齢も60歳を超えていた。日本の経営上層部はこのように一つの企業で勤めてきた人材が多く、極めて内向きに状況を考え、グローバルな視点が欠けてしまうのだ。

②デジタル革命への悪影響
デジタル化が進み日本企業はIT投資を行なったが、それによってもたらされた生産性向上に伴うコスト削減の恩恵を十分に得られなかった。IT技術によるスケーリングを通じて生産性は伸びた。しかし、終身雇用制があるためにあまり急激な労働力の置き換えができなかったのである。雇用制度に縛られリストラに踏み切れない状況や全社的なプロセス標準化に対する反感があり大規模な企業再編策を実施できず、その結果重い固定費を削減することができなかった。

また、インターネット技術の新たな波によってできた産業においては概してフットワークの軽い企業が急成長するものであった。グローバル化とデジタル革命の新時代は急速で不連続な変化をもたらし、選択と集中による迅速な意思決定が求められたのである。しかし、終身雇用をはじめとする日本的経営が日本企業のその意識への転換を難しくしていた。前章で述べたように社員は人間関係を意識するため、意思決定プロセスのなかでも内部調和を保つことを重要視するようになる。すべての関係者が直接顔を合わせて会議をし、ボトムアップ型意思決定プロセスを通じて総意を形成しなければいけないため、非常に時間がかかってしまい迅速な意思決定ができないのだ。

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