書評 「いいね!」が社会を破壊する

 本書はネットの進化、そしてそれを利用する大企業が実社会にどのように打撃を与えてきたのかを説明している。人々が得てきた恩恵、そして失っていく雇用、産業、個人データなど…。人間そのものが「無駄」になる未来を危惧している。以下の5章から構成されている。
 第1章「超優良企業はなぜ潰れたのか」では、かつて世界最大の写真感光剤メーカー、イーストマン・コダックが消滅したことを例に、今の世に、もはや企業の安泰が存在しないことを暗示する。第2章「素早く動き、破壊せよ!」では、筆者が現在のイノベーション=破壊と定義し、中小書店を駆逐したアマゾンと電子書籍の破壊力を解説する。第3章「便利の追求が雇用を奪う」では、経営にとって最大のリスク要因を雇用とし、雇用減少の激しい産業をLCCやGMS(総合スーパー)のデータとともに解説している。第4章「『いいね!』ほど怖いものはない」では、LINEをはじめとする無料アプリが、「ただ」で利用できる仕組みを解説しつつ、ユーザーがお金に代わる対価として個人情報を企業に提供していることの危険性を指摘している。第5章「勝者なき世界」では、これから何が生まれ、何が残るか未来の展望が全く描けない時代にころがる問題を提示している。富の偏在はこれからより加速し、低所得者が圧倒的多数となれば、消費が落ち込み、やがて広告に依存するネット企業まで収益源が断たれることになる。すると優れた製品に対価を支払わないような、勝者なき世界が待ち受けていると結論付けた。

 個人情報の保護が肯定されるなか、同時に個人情報の公開がもはや当たり前となった現代社会の矛盾について、もう一度見つめ直したいと思いこの本を選んだ。筆者は無料アプリを利用するためにユーザーデータを迷いなく提供する風潮、そしてそれを批判する人々があまりにもマイノリティであることに疑問を呈している。個人情報を守ることは不可能であり、さらに機械・AIの進歩によっていかに人間の存在価値が希薄化していることを認知させられた。
 ネットにのまれる社会、そして多くの問題は深刻化している。産業の衰退、少子化、高齢化、就職難など、様々なトピックにわたり現代社会を論じていたため、今後の卒論テーマの題材として非常に参考になる一冊だった。

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