トリプトファン事件


トリプトファン事件とは、1988年から89年にかけて主にアメリカで起こった大規模な食品公害事件のことである。昭和電工が遺伝子組み換え技術で改造したバクテリアに作らせたトリプトファン(アミノ酸)製品を食べたことで、死者38人を含む推定6000人が健康被害を受けた。

1989年秋、アメリカで原因不明の筋肉の痛みや呼吸困難、咳、皮膚の発疹などの症状を訴える患者が多数発見された事件で、この病気は、好酸球増加・筋肉痛症候群(EMC)という。アメリカの研究機関は、その、病気の原因究明をおこなったところ、患者たちが健康食品のトリプトファンを食べていたことがわかった。その企業が日本の昭和電工で、昭和電工では、遺伝子組み替えによって作り出した細菌にトリプトファンを作らせ、それを抽出・精製して販売していた。トリプトファンは、必須アミノ酸の一つで、不眠症などに効果があるとされている。昭和電工が使っていた細菌は、パチルス・アミロリケファシエンスといい、もともとトリプトファンを作る能力を持っている。そして、1984年10月から、その改造細菌を使って、昭和電工は生産を始めた。また、生産率を上げるために、納豆菌の仲間の枯草菌の遺伝子の一部が組み込まれて、それは1988年12月から生産を始めた。アメリカで大量に出たEMC患者はこの、最終組み替えの細菌(枯草菌)から生産されたトリプトファンを食べた人たちだけである。

このトリプトファンは、このアミノ酸をたくさん作るように遺伝子組換えをした細菌の一種を使って製造されていた。しかし、この場合に事件の原因となったのは、遺伝子組換えをしたことではなく、この細菌が生産した毒性を持つ不純物を十分に取り除けなかったためではないかと疑われているのである。この不純物をトリプトファンと一緒に食べたために、その毒で死んでしまったというのだ。

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