バイオベンチャーによる食品産業

参照:日経バイオビジネス2004年12月号、静岡フーズサイエンスヒルズHP近畿大学理工学部HP


バイオ食品産業

 食品をターゲットにしたバイオベンチャー企業は多い。その中でも特に開発が盛んに行われているのが機能性食品である。機能性食品とはいわば、バイオテクノロジーによって付加価値を得た食品のことである。特定の成分を高めた食物や本来持っていない成分を加えられた食物などがあげられる。

フーズ・サイエンスヒルズ

 フーズ・サイエンスヒルズとは、02年にお茶やわさびなど日本特有の食品素材を使った研究を推進する食品エリアとして、都市エリア事業拠点に選ばれた静岡市と焼津市からなるエリアの総称である。ここでは、バイオマーカーを用いたストレス評価法の開発と、その評価法を使った抗ストレス成分の探索、機能性食品の研究開発が進められている。

バイオマーカー

 バイオマーカーとは、尿や血清中に含まれる生体由来の物質で、生体内の生物学的変化を定量的に把握するための指標(マーカー)となるものを指す。例えば、腎機能を評価するために測定する尿中に含まれるアルブミンや、肝機能の指標となる血清中のGPT、GOT等は良く知られているバイオマーカーである。バイオマーカーはある特定の疾病や体の状態に相関して量的に変化するために、そのバイオマーカーの量を測定することで疾病の診断や効率的な治療法の確立等が可能となる。生体内には数多くのバイオマーカーが存在する。近年の科学技術の進歩は、今まで困難だったバイオマーカーの発見を可能にしてきた。今後新しく発見されるバイオマーカーは、従来の検査項目よりも鋭敏かつ詳細に体の状態を反映すると期待されている

研究開発

 フーズ・サイエンスヒルズでは、心身ストレスに起因する生活習慣病の克服を目指したフーズサイエンスビジネスの創出を目標にして研究を進めている。具体的には、食品成分の抗ストレス機能の解明と応用による生活習慣病の克服を目標に、様々なテーマを掲げ、研究開発を進めている。1つ目のテーマははヒトの生体分析・評価・高機能技術の開発とビジネスへのアプローチである。この分野の研究者たちはプロテオミクスを駆使して生活習慣病の原因となるストレスの兆候(バイオマーカー)を探査します。特定保健用食品の申請などにも使えるようなマーカーを見つけることを目指している。2つ目は光技術を用いた非侵襲病態解析とビジネスへのアプローチである。ここでは光技術を用いたヒト唾液・血液等の新規ストレスマーカー評価システムを開発します。さらに癌診断等に役立つ医薬や機器の開発を目指している。3つ目の研究テーマは、抗ストレス食品・化成品素材の開発および発言機構の解析とその応用製品への展開である。この分野の研究者たちはミカンやワサビなどの地場産品、海洋深層水、魚類未利用資源、薬草などからストレスや、生活習慣病に有効な成分を見出し、機能性食品や高付加価値化粧品の開発を目指している。

近畿大学先端技術総合研究所

 和歌山県にはマウスから大型動物まで、幅広い動物のクローン技術や組み換え技術を持つ研究者が数多く集まっている近畿大学先端技術総合研究所が存在する。同大学は、例えば付加価値のある家畜の作成技術や受精卵、配偶子という形で、市場規模の大きい世界に向けた生産・販売が可能だと期待する。

研究成果

 入谷明・近畿大学生物理工学部教授を中心とする共同研究グループがホウレンソウの遺伝子組み込む豚にホウレンソウの遺伝子を組み込んで、脂肪の一部を植物性油の主成分であるリノール酸に変えることに成功している。植物の遺伝子をほ乳類の個体で正常に機能させることができたのは世界で初めてという。同グループは食べ過ぎると高脂血症などを招く動物性脂肪を「よりヘルシーに改善できた」としており、食用を目的とした遺伝子組み換え動物の開発に、新たな可能性を開く成果として注目されそうている。 組み込んだのは「FAD2」と呼ばれ、不飽和脂肪酸のオレイン酸を別の不飽和脂肪酸のリノール酸に変える酵素の遺伝子。ホウレンソウなど野菜には広く含まれているが、ヒトなどほ乳類にはこの酵素がなく、食物からリノール酸を摂取する必要がある。リノール酸は必須脂肪酸の一つで正常な発育などのため必要なものである。