バイオテクノロジー産業の国際的状況と日本政府の対応
参照:首相官邸HP等
日本のバイオ産業は海外に遅れをとってしまったとバイオ産業の歴史の項目に記したが、具体的にはどれほどの差があるものなのか、それにたいして日本政府はどのように動いているのかといったことを以下に記述した。(注:以下の数値データの部分については平成14年度のものである)
1、研究開発状況
米国では、大統領自らがライフサイエンス分野の重点化計画の推進役となっていて、1998年以降、NIH(国立衛生研究所)の予算の倍増計画を進め、2003会計年度で達成見込みであり、同年度に約3.3兆円(273億ドル)を投入予定である。一方、我が国のライフサイエンス予算は、4,400億円程度であり、単純比較はできないが、この二つの数字の比率を見る限り、我が国の政府研究開発予算は米国の7分の1以下の比率となっている。また、世界で出願されたバイオ特許の国籍シェアをみると、米国52%、欧州21%、日本20%である。(出願年が平成2年〜平成10年を対象に調査したもの)。最近では、中国からの出願が急増しているとのデータもあり、我が国は厳しい状況に置かれている。
※NIH・・・アメリカ国立衛生研究所( National Institutes of Health;NIH)は、アメリカ合衆国の保健社会福祉省公衆衛生局の下にあり、1887年に設立された合衆国で最も古い医学研究の拠点機関。本部はメリーランド州ベセズダに置かれている。Institutesと複数形であるように、国立癌研究所、国立心肺血液研究所、国立老化研究所、国立小児研究所、国立精神衛生研究所などが所属している。(wikipediaより抜粋)
2、人材供給状況
BTを担う人材の供給状況を見ても、我が国の状況は厳しいと思われる。大学、大学院等の制度が異なるため日米の単純な比較はできないものの、我が国のBT関係学位の取得者数を生物学・薬学に限定して見た場合、学士10,914人、修士2,607人、博士476人となっている。また、これに医学、農芸化学を加えてみた場合、学士20,987人、修士3,154人、博士3,373人となっている。一方、米国の学位(Biological science)では、学士(Bachelors) 67,112人、修士(Masters)6,368人、博士(Doctors) 5,854人となっている。(以上平成10年)。この日米の格差は大きく、例えば生物学・薬学に限定した場合の我が国における学士レベルの絶対数は米国のBiological scienceの学士数の6分の1以下となっている。米国の全人口が日本の2倍強であることを考えると、国民一人あたりで我が国は米国の3分の1以下の人材供給しか行っていないことになる。
3、バイオベンチャー企業の現状
バイオ産業の担い手の大きな部分がベンチャー企業だと言われる。我が国のバイオベンチャー企業数は、平成14年年春には累計で約300社まで拡大してきてはいるが、しかし米国の水準にははるかに遅れている。また、バイオベンチャーに投資するベンチャーキャピタルのファンド額は 平成12年から平成13年まで急増し、540億円超☆のファンド額となっているが、現状ではその投資先の多くが海外企業であり、資金は実際には海外へ流出している状況となっている。
バイオテクノロジー戦略大綱
平成14年に発表された日本政府のバイオテクノロジー産業の、戦略方針をまとめたものである。上述した現在の日本のバイオテクノロジー産業の現状を考えると、日本のバイオ産業は大きな跳躍をすることが求められていることが明白である。その跳躍のためには、官民が協力する取組が不可欠である。その大きな跳躍を目指して取るべき戦略を、次の三つの分野に分けて提案している。第一に、科学的進歩の極めて早いBT分野での技術シーズを供給する「研究開発」、第二に、その科学技術の成果の実用化を行って国民生活と国民経済に実際のメリットをもたらすための「産業化」、第三に、安全や倫理への対応が急務である新しい技術分野として、国民がその成果を受入れ、享受するための基盤となるBTへの「国民理解」である。この三つの分野での戦略が、どの分野も欠けることなくセットとして組み合わされて実行されることを目指して、それぞれの分野において大胆な戦略が練っていく、というものである。方針について以下に間単に示す
1、研究開発の圧倒的充実
研究開発予算の充実・強化
研究開発促進のための体制整備(戦略的な予算編成と効率的な執行BTを支える人材供給の抜本的充実 )
研究開発のターゲットを絞る(日本の強みを活かした研究開発・融合分野の研究開発の推進等)
2、産業化プロセスの抜本的強化
産業化のインセンティブの抜本的改革
産業化に向けた各主体の能力の大幅強化( ベンチャー企業の活性化・技術シーズの供給役としての大学・公的研究機関等)
事業環境の整備(研究開発と産業を結ぶ研究開発基盤機能の整備・ 戦略的な知的財産政策の強力な推進等 )
3、国民理解の徹底的浸透
情報の開示と提供の充実
安全・倫理に対する政府の強固な姿勢を国民に提示
学校教育、社会教育等の充実