産学の連携
参照:バイオベンチャーの事業戦略(大滝義博・西澤昭夫共編)
バイオテクノロジーには、大学や公的な研究機関などで行われる最先端の研究が産業に結びつくという特徴がある。他の分野とサイエンスリンケージを比較すると、バイオテクノロジーという分野では、科学と技術の近接性が高く、大学等での基礎的研究がそのまま特許になることが多い。日本のライフサイエンスと情報処理に関連する研究開発費の構成を見ると、情報処理では、産業界の研究開発費が80%以上を示すのに対し、ライフサイエンスでは大学や研究機関の研究開発費が50%以上を占める。しかも、政府のバイオ関連予算の増加に伴い、さらに大学や研究機関の研究開発費は増大し、その占める割合も増加している。日本のバイオ産業の発展のためには、わが国の研究開発費の半分以上を消費する大学や公的研究機関の研究成果を、いかに産業界での実用化につなげるかが大きな課題といえよう。
研究協力の現状
日本の産学連携の状況を国立大学を中心として定量的に見てみる。総務省の科学技術研究調査報告から大学の研究費に占める民間企業からの研究費の状況を見ると、最近は産業界からの資金は増加しているが、大学の研究費に占める産業界の資金の割合は大きく変化しておらず、米国や英国、ドイツと比較して低いことが分かる。
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日本
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アメリカ
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イギリス
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フランス
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ドイツ
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割合
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2,4% |
7,6%
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7,2%
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3,4%
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11,3%
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研究協力の課題
金額ベースで見て、産学連携が進んでいないのは産業界と連携のための制度や大学での産業界との連携体制、大学と産業界との研究の進め方の違いが要因となっている。例えば、研究資源が充実している国立大学では、共同研究や委託研究等の研究成果の権利は国と企業との共有になり、企業が特許権等を第三者に使用させる場合も含め、企業が実施しにくいという制度的な課題があった。そのほかに、教員の応用・実用化研究に対する関心の低さ、大学での研究の進め方が、企業のタイムスケジュールに会わないこと等の要因がある。また科学技術基本法の制定及び科学技術基本計画の策定により、競争資金が増加し、高額のプロジェクトが増えたことから、有力大学では多くの研究費が獲得できるようになったので、そういう大学では必ずしも産業界の資金を獲得する必要がないため、大学側から企業のために活動するという傾向があるという印象は否めず、イコールパートナーとしての産学連携には遠い状況にある。
新たな取り組み
上述したような状況がある一方で、最近では政府の研究開発プロジェクトや企業が独自に大学と進める研究開発プロジェクトに新しい動きが見られる。産業界と大学や公的機関との間で、独自に多額で長期的な研究契約が締結されるようになってきた。代表的な例は、東北大学の未来科学技術共同研究センターの半導体技術を使用したプロジェクトである。これは、研究施設を企業(シャープ、オムロン、セイコーエプソン、東京エレクトロン等)からの資金によって建設し、2007年3月まで100名の研究者が参加して、研究開発費83億円で進められる。製造業だけでなく、商社も大学と本格的な研究契約を締結するようになっている。
また、大学と産業界が共同で知的財産権を管理する動きもある。例えば、京都大学では三菱化学はじめ5社と共同研究を進めており、先行技術調査やプロジェクトから生まれた成果の権利保護に関しては、参加企業と合同で管理している。
その他に、企業が大学の研究者に対してテーマを募集して研究を支援する動きもある。(トヨタ自動車、協和発酵)