バイオベンチャーへの投資について

バイオ市場の特徴
 バイオ市場は、将来性を数値化しにくい上、大ダメージに繋がりかねない「予測不可能なリスク」が数多く潜んでいる。予測できないリスクの筆頭に挙げられるのが医療分野に関係する「規制」である。医薬品や医療機器は元々製造・販売に多くの規制が絡んでくるが、特に新しい市場が開かれるタイミングでは規制の動向が問題になる。最近の例では再生医療が挙げられる。厚生労働省や医薬品診療機器総合機構の審査の方針が固まるまで長い時間が必要となるため、開発済みの技術をすぐに実用化できないのである。その他に、薬品の副作用(トリプトファン事件など)や社会の受容なども予測が難しいリスクだと言える。他業種に比べ予測不可能な環境変化が起こりやすいバイオビジネスにおいては、市場の変化を常に観察し、目標をフレキシブルに変えていくことが重要だという。

VC(ベンチャーキャピタル)

 
研究開発に時間がかかり、収益をすぐに得ることが難しいバイオベンチャーにとって、重要な資金源となるのがベンチャーキャピタル(VC)である。VCとは、ベンチャー企業の特性を十分理解したうえで、投資家と企業家を仲介して、エクイティ証券によってベンチャー企業に資金を供給する特殊な金融機関のことである。
 ベンチャーキャピタルがバイオベンチャーに投資をする際は、他業種のベンチャーに投資をするときよりも密接な関わりをその企業と持つ。例えば、バイオベンチャー企業では、起業家はほとんどが研究機関の研究者や学者、大学の教員などである。こうした人々は、今までビジネスプランを作成した経験など全く無く、直接事業活動や研究活動に関わった経験のない人であることが多い。こうした人間がベンチャー企業を引っ張っていけるかというと、不安がある。そこでこの不安を解消してくれるのがVCである。VCは、事業を行うためのビジネスプランの作成から一緒になって議論し、収益モデルの検討、技術・特許、将来の成長性までも議論し、ビジネスモデルを作り上げていくのである。
 また、資金面でも、VCはベンチャー企業が研究開発から成果が出るまでの「死の谷」と呼ばれる期間を乗り切るために、随時ベンチャーに対しての増資を行っていく。どんなに研究が進んでも会社の経営がまずくなってしまえば、そこで全ては無駄になってしまうからである。VCはビジネスプランの進捗具合にあわせて、必要資金を提供していく。

アメリカ 

 ウォールストリート・ジャーナル紙によれば、株式を公開しているアメリカにおける、バイオ企業への90年から03年の収支を計算すると約410億ドル(約4兆5100億円)の損失になるという。つまりバイオ分野への投資は全体で見ると大赤字である。また、過去20年の間に新規株式公開に成功した350社のバイオベンチャーのうちの6分の1以上が倒産したり、二束三文で売却されてしまっている。こうしたバイオバブルの崩壊が新たに株式公開をしたバイオ企業に対する投資家達の目を厳しくしていることは間違いない。しかし、バイオテクノロジー分野全体への投資熱が冷めたかといえば、そうではないのである。それは、一つの開発物が成功するか否かで大きな浮き沈みが起こる、ハイリスク・ハイリターンというバイオ市場の特徴を投資家達が理解するようになったからである。そのため、バイオ市場はある種の宝くじやルーレットのようなものだという投資家もいる。最近では、このハイリターンに魅せられて、インサイダー取引など不正な方法で利益を得ようとする投資家も現れた。

参照:バイオベンチャーの事業戦略(本)、日経バイオビジネス