バイオ市場の展開
市場が小さい
日経BP社の調査によると、2004年のバイオ国内市場規模は前年比5,2%増しの1兆7470億円になる。しかし個別の事業別で見れば、大きいと言われる対外診断薬部門でも3800億円程度にすぎない。大手企業が本気を出して取り組むには、あまりにも小さな市場である。それでも、数年後には巨大市場を形成すると言う期待感から多くの企業が参入してきたが、現時点において市場は企業の予測ほど成長をしていない。 市場が無いと言う状況を逆手に取り、利益を上げている企業もある。その例として82年に米のバイオベンチャー「Amgen」と合併会社を設立し、医薬品事業を立ち上げたキリンビールが挙げられる。キリンビールは当時多くの企業(Amgen含む)が研究開発を進めていたインターフェロンアルファという物質についての研究は行わず、製薬業界がほとんど興味を持っていなかったEPO(造血作用を持つホルモン)という物質の研究開発を行った。まだ成長が未熟な産業においては既存の市場で争うよりも、潜在需要を掘り起こして新たな市場を開くほうがリスクが少ないと判断したのだ。この予測は見事に的中し、EPOは全世界で1兆円を超えるバイオ医薬品へと成長したのである。
特定保健用食品
市場規模が小さいバイオ産業界で著しい成果をを上げている分野がある。それは特定保健用食品、いわゆるトクホである。トクホが1991年に導入されて今年で14年が経過する。この間、高齢者の増加や健康意識の高まりを背景に市場は急速な成長を遂げた。2003年度のトクホ全体の売り上げは約5600億円と推定されており、すでに大衆薬市場に迫る規模となっている。例えば、体脂肪の低減をうたった緑茶などが100億円超の売り上げを記録するなど、消費者がトクホに寄せる信頼はゆるぎないものとなっている。
2004年度においてトクホの許可を受けた商品の数は470を超えた。以前は乳酸菌を中心とした整腸作用をうたうものが7割を占めていたが、多くは既存の商品を利用したものだった。それが、ここ数年は初めからトクホをにらんで開発された商品が増えており、特に高血圧や糖尿病など生活習慣病に関わるものが人気を集めている。
しかし、企業がトクホの許可を得るには、厳重な臨床試験などを実施して有効性や安全性を証明する必要があった。中小企業の参入が少ないのはこれがハードルとなっているためで、トクホ市場は事実上、十分な知識と人材、それと予算を持つ大手企業による寡占状態となっていた。だが、ここにきてトクホ参入を容易にする動きが目立ってきている。大阪市立環境科学研究所では、既存トクホの成分や効果をデータベース化し、商品開発を支援する仕組みを秋からスタートさせる。文献情報の提供から許可申請のサポートまで行う予定で、中小企業の参入に弾みがつきそうだ。また、トクホに最適な成分を食品メーカーに提供する素材メーカーも増えている。開発体制を持たない中小の食品メーカーでもこうした素材を利用することで比較手容易に健康機能を自社製品に取り入れることができるだろう。
トクホによって医薬品と食品の垣根が低くなった結果、医薬品メーカーがトクホに進出する例も目立ってきた。開発力に優れ、ブランドとしても消費者に広く認知されている医薬品メーカーや大手食品メーカーを相手として、健康食品市場で勝ち残っていくことは容易ではない。素材メーカーなど他社との協力体制を築くことが、中小企業にとっての成功の鍵となるだろう。