医薬品の研究・開発事業に取り組むバイオベンチャーは少なくない。特に神戸地域にあるバイオクラスターでは医薬品の製造や治療技術の開発が盛んである。神戸地域では、高度医療の提供を通じた市民の健康増進、地域産業の活性化を目的として、「神戸医療産業都市構想」を推進している。神戸地域の知的クラスター創成事業では、この医療産業都市を支えバイオメディカル分野の基礎研究の成果を臨床技術として実用化するトランスレーショナルリサーチを実現するシステム作りを目指している。ここでは「再生医療」などの先端医療技術や「がんや糖尿病などの生活習慣病の診断・治療」のような直接的な医療分野以外にも、システムバイオロジーや医療機器、分子イメージングなどの異分野融合技術なども含め医療技術を支えるための幅広い技術分野の研究開発が進んでいる。研究内容について以下に記す。
肝細胞を用いた細胞移植
幹細胞は、ある細胞に変化するようにという指示を受けると特定の細胞に変身、すなわち分化する能力を持っている。また、変化を遂げる前の未分化の状態で長期間にわたって自らを複製、再生する能力も備えている。その幹細胞を用いて有用な神経細胞を産生し、これを細胞移植治療に用いる再生医療の研究が進んでいる。従来の方法では治療の難しいパーキンソン病等の神経難病治療への応用を目指し、幹細胞を利用した技術開発研究を体系的に進めていく。 中枢神経系は高度な機能を持った体のなかで最も複雑な器官であり、脳は再生・修復力はなく、一旦受けた傷害は元に戻すことは不可能であると信じられてきた。しかし、最近のES細胞研究の進展は神経難病治療に対して新たな可能性を導き出した。神戸知的クラスターでは、特にその応用が期待されているパーキンソン病に対して、まず霊長類(サル)ES細胞から効率の良いドーパミン神経細胞の分化を誘導し、それらを用いてパーキンソン病モデルサルに対して細胞移植治療法を確立を目指している。パーキンソン病モデルサルの安定的かつ効率の良い作成が可能となったので、サルES細胞由来ドーパミン神経のモデルサルへの移植研究を開始した。今後 、これをさらにヒトES細胞を用いた応用研究へ進める予定。
*肝細胞:通常、成長した生物の細胞は、普通は特定の役割をになうように機能が限定されており、分裂増殖しても胃の細胞は胃の細胞、皮膚の細胞は皮膚の細胞にしかならない。皮膚の細胞からは皮膚のクローンしか作れない。 幹細胞は分裂増殖によって別の機能を持つ細胞になることができる特殊な細胞。例えば、受精卵は最初はたった一個の細胞だけれど、分裂増殖していくと、身体の各部分向けに機能が分かれたさまざまな種類の細胞になっていく。
岡山大病院遺伝子・細胞治療センター
「遺伝子・細胞治療センター Center for Gene and Cell Therapy (CGCT)」は、従来の研究・医療体制とは異なる、先端医療の臨床実践に特化した機能単位として、平成15年4月に岡山大学附属病院に設置された。施設面では、中央診療棟5階にウイルスなどの生物製剤を扱うP2ルーム、患者さんに投与する細胞を調整するクリーンルーム、さらにそれらの細胞・生物製剤の品質を管理するQCルームなど最新の設備を完備しており、各部屋の清浄度は24時間モニターされています。ソフト面では、臨床各科のプロジェクトについて、プロトコールの立案から科学的・倫理的評価、実践に際しては、治療の安全性、有効性、コストに関するデータ収集からその臨床的有用性や将来的な汎用性の判定までを支援している。
ガン細胞を光らせるウイルスを開発
岡山大病院遺伝子・細胞治療センターの藤原俊義助教授(消化器・腫瘍外科学)らのグループが、リンパ節に転移したがん細胞を光らせるクラゲの発光遺伝子を組み込んだウイルスを開発した。 藤原助教授によると、がん細胞は最初にがんができた原発巣から、リンパ管を通じてリンパ節に転移し、全身の臓器に及ぶ。臓器への転移を防ぐためにリンパ節を切除する場合、小さな転移は見つけにくいため、周囲の正常なリンパ節を含めて切除する「郭清手術」が一般的である。 藤原助教授らは既に、がん細胞だけを死滅させるウイルスを開発しており、間もなく臨床試験に入る予定。今回、このウイルスにオワンクラゲの発光遺伝子を結合させ、新しいウイルスを生み出した。新ウイルスは術前に腫瘍に注射すると、数日後に原発巣と転移したリンパ節で増殖。特殊な光を当ててフィルターを通して見ると、がん細胞が黄緑色に光って見える。 実験で、直腸がんを発症させたマウス7匹の腫瘍に新ウイルスを注射すると、計13カ所あるリンパ節転移のうち12カ所を特定できた。藤原助教授は「人に応用できれば、手術の際に切除範囲を小さく抑えることが期待できる」としている。