【 PCR : Polymerase Chain Reactin 】
( ポリメラーゼ連鎖反応 )
・PCRとは
PCRとは、DNAを人工的に増幅させる技術です。
細胞のDNAがコピーされるときには、DNAの二重らせんがほどけて1本ずつになり、それぞれの鎖を鋳型にしてペアになるDNAが合成されます。PCRはこのようなDNA複製の反応を人工的に繰り返し行うことにより、DNAを増幅させます。
従来の組換えDNA技術では、大腸菌の力を借りて人工的にDNAの複製を行うことによって必要なDNAを増やしてきましたが、この方法では複雑な操作を繰り返して目的のDNA領域を回収するのに数日を必要としました。
PCR法を用いれば、全自動の卓上用装置を使って短時間で効率的にDNAを増幅することができます。現在では、分子生物学の研究に欠くことのできない手法として発展し、医学、犯罪捜査(DNA鑑定)など多様な分野へ応用されている技術です。
・PCRの原理
DNAは高温(摂氏九四度)にすると二本の鎖がほどけて一本ずつばらばらになり、徐々に温度を下げると元通りの二本鎖に復元する性質がある。二本鎖がほどけた時に大量のプライマーを入れると、それぞれの鎖上の相補的な配列の部位に優先的に結合する。そこにDNAポリメラーゼと四種類の塩基があると、プライマーが結合した部分を起点としてそれぞれの鎖を合成していく。
(1) DNAの1本鎖への変性(94℃)
(2) プライマーの結合(45℃)
(3) 耐熱性DNAポリメラーゼによる相補鎖の合成(72℃)
というサイクルを何回も繰返すことにより、目的とする遺伝子領域だけを増幅させることが出来る。
高温の温泉などに生息するバクテリアには、72度が至適温度のDNAポリメラーゼをもっている種類がいる。このバクテリアのDNAポリメラーゼを用いることにより、温度の上下(94度→45度→72度→94度)のサイクルを繰り返すだけでDNA合成の連鎖反応が起こり、試験管内で短時間に対象とするDNAを増やすことが可能となったのである。
※ プライマーとは、目的とするDNA領域の両末端の二〇塩基ほどと同じ塩基配列をもつ一本鎖DNA分子の一組
※ DNA ポリメラーゼとは、1本鎖の核酸を鋳型として、それに相補的な塩基配列を持つ DNA 鎖を合成する酵素の総称。
※ 耐熱性DNAポリメラーゼを用いないと、高温時に酵素が失活してしまう。
(参考 : wikipedia)
・PCRの利点
・ PCR法は、DNA複製過程を試験管内のみで、二〜三時間で行うことができる。大腸菌を用いる従来の組換えDNA技術よりも短時間で処理を行える。
・ 特定のDNA領域を選択的に増幅させることができる。効率的に必要とするDNAを回収することができる。
・ プロセスが単純であり、、全自動の卓上用装置で増幅できること。
・PCRの問題点
・ コンタミネーション(汚染[contamination])の影響が大きい。非常に敏感な反応であるため、無関係なDNA配列を増幅する可能性がある。一つのDNAの複製を何度も繰り返すと、予期しない遺伝的発現やエラーを起こすことがある。
・ 増幅前に目的のDNA鎖の両端の塩基配列を明らかにしなければならない。
・ その他にも、酵素の失活が結果に大きな影響を与える、サンプル(鋳型になるDNA)の正確な定量は困難である、といった問題がある。
・備考
PCR法を開発した米国のキャリー・B・マリスは、遺伝子研究を飛躍的に発展させた功績によって1993年のノーベル化学賞を受賞した。