【イオンビーム育種と遺伝子組み換え技術の併用】



・イオンビーム育種の可能性


園芸・観賞用花卉などの植物育種は、食用植物の育種などと比べた場合、人体に直接入らないという理由から遺伝子組み換え技術が使いやすいと言われてきました。しかしながら技術が徐々に確立してきている現在においても、実用化されているものは「色変わりカーネーション、バラ、トレニア」など数点の植物のみです。

その理由の一つとして、花は単一作物としては市場規模が小さいということが挙げられます。遺伝子組み換え技術を利用することは、開発に必要なコストや規制当局への申請の手間といった経済性を考慮した場合、必ずしも採算がとれるとは言い切れません。市場規模が小さいにもかかわらず市場への新規参入する際の敷居が高いことから、開発者は従来の育種技術でより確実に利益を生み出そうとするのが現状です。

また、遺伝子組み換え技術は、開発から承認が得られるまでに10年近くの時間が掛かるということも挙げられます。花卉や種苗の市場では冠婚葬祭などの恒常的な需要が大きいので、新しい色の花を開発しても従来色の花の需要が無くなるわけではなく、市場の一部しか獲得できない。花の色や形など消費者の嗜好が移り変わるような形質の場合においても、開発から承認が得られるまで10年近く必要な遺伝子組み換え技術では時間が掛かりすぎる。


そこで、遺伝子組み換え花にイオンビームを照射して新品種を育成しようという試みが生まれました。例えば、遺伝子組み換え技術で汎用性の高い形質である「耐病性」をもたせた花の品種を作り、この耐病性品種からイオンビームによってさまざまな色や形の花を育成するといったことです。

つまり、遺伝子組み換え技術を利用することによって本来その植物には無い形質を付加させ、イオンビーム育種技術を利用を用いて親の形質の一部だけを変異させれば、効率的な育種が行えると同時に、その花の市場全体をターゲットにしたマーケティング戦略を展開できます。

切花のような、消費者の嗜好の変化が大きな影響力を持つ市場においても、平均開発期間が2年と言われるイオンビーム育種技術を併用することによって消費者のニーズの変化に対応することができます。


花卉市場は、時期と品種により需要を質的に転換させ、趨勢を変化させる可能性を持っています。遺伝子組み換え技術とイオンビーム育種を組み合わせることは、ターゲットとする市場をより大きくしながら、ニーズの変化のスピードに追いついていくという新たな育種の可能性を提示することができるかもしれません。


<参考:日経バイオビジネス2005.08>