【バイオセンサーで土壌を”診断” : 作物病害リスクの判定法】


・サカタのタネ、世界初 土壌微生物の活性を調べるバイオセンサーを実用化

土壌診断用バイオセンサー『Soil Dock(ソイルドック)』を販売開始 : 2006年05月30日

株式会社サカタのタネは、東京工科大学と産業技術総合研究所の産学官連携により、世界初の土壌診断用バイオセンサー『Soil Dock』を製品化、販売を開始した。

Soil Dockは、サンプル土壌中の有効微生物(善玉菌)と病原微生物(悪玉菌)の活動状況を、それぞれの菌の呼吸に基づく酸素の減少量で把握し、数値化、診断する。分析に必要な時間は、1サンプル当たり30分間程度で済む。同バイオセンサーを利用すると、土壌病害に汚染されていない畑が特定の病害に侵されやすいかどうかを、事前に予測できる。すでに土壌病害に汚染されている場合は、投入すべき有効微生物あるいは農薬の種類と量の決定を、経験としてではなく数値として診断する。

 農業現場において、土壌消毒にかわる方法として有効微生物投入による土壌の生物環境多様化に期待が高まっている。有効微生物投入による防除では畑が特定の病害に侵されやすい性質を持っているかを予測し、また、すでに土壌病害に侵された畑では投入すべき有効微生物を特定し、その量を経験や勘に頼ることなく定量的に決定することが重要となる。

 しかしながら、これまで土壌における生物学的評価の研究は数多く行われてきたが、費用と時間の問題からいずれも実用的ではなかった。土壌診断用バイオセンサー『Soil Dock』は、従来不可能だった土壌病害に対する潜在的な予測や具体的な対策を、最先端のバイオセンサー技術によって可能にした画期的な製品といえる。加えて、現在の農業においてバイオセンサー技術を用いた測定装置の実用化事例はいまだなく、その点からも『Soil Dock』は画期的といえる。

土壌病害の発生事前予測ができるということは、その畑の体質にあった善玉菌の選定と活用(畑の善玉菌の割合を増やすことにより病害の発生を予防)、畑とその畑で発生しうる病害に応じた品種・栽培方法・作型・資材などの選定など、環境にやさしい自然な形での早期防除につなげることができることを意味する。


・Soil Dock

『Soil Dock』は受注生産方式をとり、2006年7月3日より受注開始、2006年12月ごろより順次出荷を行う。価格(税込希望小売価格)は、315万円。交換用微生物フィルター(5種)は各2枚セットで21,000円。販売目標は3年間(2006年7月〜2009年6月)で累計2億5,000万円を予定しているという。

有効微生物とは

土壌中のウイルス、バクテリア(細菌)・糸状菌(カビ)などの微生物のうち、植物に感染し病気をおこす微生物を「病害微生物」といい、それ以外を「一般微生物」という。さらに「一般微生物」のうち、病害微生物の防除や植物の成長に有効で、植物に対して役立つ微生物を、土壌肥料および土壌微生物分野では、特に「有効微生物」と呼んでいる。

土壌病害とは

土の中のウイルス、バクテリア(細菌)・糸状菌(カビ)などの微生物が、作物に感染することにより発病する病害のことを「土壌病害」という。

しかしながら、土の中のウイルス、バクテリア(細菌)・糸状菌(カビ)などの微生物のすべてが悪さをするわけではない。一般的には土1グラムあたりに数千万個の微生物が住んでいて、これらは植物に対して害を与えるか否かで善玉菌(一般微生物)と悪玉菌(病原微生物)に分けることができる。土の中ではそれらのバランスが重要となり、健全な土には、良い菌(善玉菌)がたくさんいるということだ。農家の人々は、善玉菌を増やすべく経験的に堆肥や土壌改良材などを入れて肥えた土壌にするなどして、健全な土作りを心がけてきた。しかし、実際には連作、あるいは天候不順、過剰な化学肥料の投入などで土壌は傷めつけられ、善玉菌の住める環境が失われ土壌病害を招いてしまうケースが多々ある。

ひとたび土壌病害が起こると、根は枯死し、自分の畑以外にも伝染して広がることで地域の畑全体を滅ぼしてしまうことにもなりかねない。有名な例としては、1845年、ヨーロッパの一部で流行していた土壌病害のジャガイモ疫病がイギリス、アイルランドへと広がり、翌年には疫病の大発生とその後の凶作も加わり、当時ジャガイモを主食としていた100万人を超える人びとが餓死したという。

土壌病害は人類の食糧供給にも関わる非常に大きな問題といえる。実際に発生するまではなかなか予測がつかず発見が遅れるといった難しい面もあり、症状がひどい場合には農薬などによる土壌改良が必要となるが、農薬に頼りすぎると病害微生物が農薬に対する抵抗性をどんどん身につけ、新しい病害微生物と農薬の開発がイタチごっこの状態になってしまう。


『土壌診断用バイオセンサー』で何ができるか

 『土壌診断用バイオセンサー』の基本的な原理は、土壌中の善玉菌と悪玉菌の活動状況を、“それぞれの菌の呼吸に基づく酸素の減少量で把握し、数値化して診断しよう”というものです。

測定方法は、測定対象となる畑の土を緩衝液で懸濁したサンプルに、あらかじめ善玉菌を付着させたセンサーと悪玉菌を付着させたセンサーの2種類のセンサーを浸けます。約30分後に、善玉菌側と悪玉菌側のどちらの数値が上がったのか(=どちらの微生物がより活性化し酸素を消費したのか)がパソコン画面に表示されます。そのデータを比較することにより、善玉菌と悪玉菌のどちらにとって住み心地がよい土なのかを数値化します。つまり『土壌診断用バイオセンサー』を用いることで、土壌病害が発生しやすい畑かどうなのかを事前に予測することが可能になります。特に強調したいのは、経験としてではなく数値として土壌を診断することができる画期的な装置という点です。

(参考:(株)サカタのタネ HP)



サカタが作物病害リスクの判定法  (参考:2004/6月 バイオビジネス)

株式会社サカタのタネは、産業技術総合研究所バイオニクス研究センターと共同で、土壌病原菌の活性を調べて作物の病害発生リスクを予測するバイオセンサーを開発し、事業の可能性を探っている。

従来、作物に病害をもたらす病原菌は、高密度に存在する状態(例えば、糸状菌ならば1gの土の中に1万個程度の胞子)で初めて検出が可能だった。しかしそれでは、既に作物に何らかの病兆が出ているという状態であり、土壌消毒などの対策を施しても後手になってしまう。症状が出る前に手を打つための”早期診断”の手法が求められていた。

『土壌診断用バイオセンサー』は、畑が病害に侵されているのかどうかを測定するのではなく、“この畑は病害に冒されやすい性質を持っているかどうか”といった、従来予測が不可能であった土壌が持つ病害に対する潜在的な特性を、最先端のバイオセンサー技術を用いて測定する画期的な装置である。現在の農業においてバイオセンサー技術を用いた測定装置の導入は未だなく、そのような観点からも画期的といえる。

土壌バイオセンサーを研究開発、そして事業展開にどう結びつけるかは、サカタ社内でも検討中という段階。まずはより詳細な「診断基準」作成のために、各地の農業試験場などで使ってもらい、データの集積を進める方針にある。農学系の研究機関から既に50件以上の引き合いが寄せられているという。