『生長・開花調節技術



花卉は他の農産物と異なり、その効用は心理的であり、一般的に花卉の色、形は美的であることが望まれています。また、花卉が希少の時代には作ればどんな品質のものでも直ちに売れたが、生産量が増加し、その用途も多様化した現在においては、望まれる時期に目的、用途、飾る場所、使い方に合った品質と価格が求められています。

産地または生産者サイドは、需要期に合わせた植物の開花・生長の調整管理、消費者のニーズに合った品質向上と品質管理が生産上の課題であるといえます。品質競争は販売額の増加または維持を図る非価格競争であり、生産量または出荷量による価格競争とともに、産地間、生産者間の重要な競争の一つでもあります。


・植物生長調整


鉢花は鉢と植物のバランスが大切であり、草丈を低くして鉢との釣り合いをよくしたものが美しいとされています。

しかしながら、鉢物栽培は非常に労働集約度が高く、育苗、施肥、かん水、温度・湿度や光などの環境管理などを行なう際に、細心の注意と知識・技術が必要となります。生産施設において多品目少量生産のなかで全ての作物に適した管理を行なうことは難しいというのが現状です。

 そこで、植物の生長を抑制する生長抑制剤や矮化剤などが用いられるようになりました。園芸店に並んでいる商品としての鉢物の多くはこれらの薬剤を利用しています。


植物生長調整剤

植物成長調整剤の多くはジベレリンのように植物ホルモン作用をもつか、反対にその作用を抑制する物質が主な成分です。たとえば、作物の発根促進、成長促進、果実の肥大、種なし化、開花促進あるいは、作物の背丈を抑えて形を整えたり、倒伏を防止する作用などです。植物成長調整剤を使って、成長や生育過程に変化を与えることを植物の化学調節と呼び、重要な栽培技術になっています。

植物生長抑制剤(矮化剤)

植物の生理機能に影響を与え、その生長に対し抑制的に作用する生長調節剤の一種。生長調節剤には発芽や発根の促進、果実の摘果、肥大、熟期の促進、側芽の発生抑制などの目的で使用される植物ホルモンやそれと類似の性質を示す化学物質、倒伏防止、矮化、苗の徒長防止のために使用される抗ホルモン作用を示す物質などがあります。


植物ホルモン

植物成長調整剤は植物ホルモンか植物ホルモン様物質が主な成分ですが、現在知られている植物ホルモンには以下の6種があります。

オーキシン
植物に光を当てると光の方向に曲がることがきっかけとなり発見されました。最も特徴的な作用は幼い植物の伸長促進です。キクなどの花きや果樹の挿し木の発根をよくするため、合成オーキシンのインドール酢酸が使われます。
ジベレリン
植物の成長促進作用のほか、種子や芽の休眠打破、ブドウの無種子化、熟期促進などの作用があります。現在まで90種類以上が知られています。
サイトカイニン
細胞分裂を促進したり、細胞を拡大する作用をもっています。さらに、植物の老化を抑える作用もあります。
アブシジン酸
花や果実の脱離、種子や芽の休眠作用があり、オーキシン、ジベレリン、サイトカイニンが生長促進型ホルモンなのに対してアブシジン酸は抑制型ホルモンといえます。
エチレン
果実成熟を促進する作用があります。そのほか発根や根毛の成長促進、花芽形成促進などの作用があります。青いまま輸入されたバナナを黄色に熟させたり、夏に出回る早生温州ミカンの色づきをよくするカラーリングにも使われます。
ブラシノステロイド
オーキシン、ジベレリン、サイトカイニンの作用を合わせ持っており、農業分野での利用も検討されています。


・植物開花調節


園芸・観賞用植物の開花を人為的にコントロールすることによって、栽培コストの軽減、周年栽培を可能にすることを目指す技術です。


・電照栽培

需要が多く、取引価格が高い時期に出荷できるように開花を調整するために、太陽熱利用暖房ハウス(ビニールハウス)や電照を用いて開花を抑制または促進する技術などが利用されています。

例えば仏事用として多用されるキクは、電照を用いて開花を抑制することで本来の開花時期ではない時期(秋から春)に出荷されています。生産者はより多くの需要に対応しつつ、ターゲットとする市場を拡大することができます。


・開花時期制御遺伝子の利用

開花を抑制したり、突然変異によって本来の開花時期ではない時期に得られた花は、本来のものと比べると品質が悪いという問題があります。そこで、近年では遺伝子をコントロールし、出荷時期・品質向上を図ろうとする研究がなされています。

また、近年では、イオンビーム育種法などの新たな技術を用いる研究もされています。