『放射線育種』



・放射線育種とは

放射線育種とは、放射線を利用した作物の品種改良のことです。放射線を使って、植物に突然変異を誘発させることですぐれた性質を持った植物を作り出します。

※ 突然変異(mutation) : 生物の遺伝子の変化による、親とは異なる性質を持った生物の発生

ショウジョウバエや大麦などにエックス線照射をすると突然変異の確率が高まり新種ができることが発見されて以来、農業の分野では品種の改良などに放射線が利用されています。現在では、安全性や突然変異を起こす効果の大きいことからガンマ線が最も多く用いられています。新種の育成は、イネやムギ、レタス、トマトなどの作物の他に、ベゴニア、サツキなど特に園芸分野で盛んです。

放射線育種には、その作物には存在しない新形質の創出、その品種の純粋さを損なわずに目的形質のみの改良、交配の難しい栄養繁殖性作物の改良ができるという優れた点があります。


・自然界への影響

突然変異は自然界でも頻繁に起こっています。人類は古来より「枝変わり」や「色変わり」など自然に起こった突然変異体を見つけ出し、有用なものを選び出して品種改良を行ってきました。突然変異は自然界で起こる進化の摂理だといえます。

1928年に米国のスタドラーがX線を用いて人工的に植物に突然変異を起こすことが出来ることを見つけて以来、植物の品種改良には積極的に放射線が利用されるようになりました。今では世界中で2200種を超える品種が突然変異によって作られており、食料や観賞用植物などとして使われています。


・放射線育種場

放射線育種場では、放射線により誘発された突然変異を利用した作物の品種改良、及びその効率的誘発のための基礎研究を行っています。その対象は、種子繁殖・栄養繁殖作物から木本作物など多岐にわたって行われています。また、新品種の育成、新しい特性をもつ種子の開発、突然変異誘発機構の解明・突然変異誘発技術の開発などの基礎的な研究、農作物の品種改良とその選抜技術の研究なども行われています。

放射線育種場はアジア地域における放射線育種分野において、指導的立場で研究支援を行うとともに、依頼に応じた照射サービスを提供しています。大学・民間企業・都道府県からの依頼を受けて照射を行うなど、共同研究も活発に進めています。

放射線育種場は、屋外にあるガンマ線照射施設(ガンマーフィールド)を主要な施設とする農林省の試験研究機関として1960年に設置され、組織変更により1983年には農林水産省農業生物資源研究所の支所となった。

2001年4月には省庁再編成により、旧農業生物資源研究所と旧蚕糸・昆虫農業技術研究所が統合され、さらに、家畜ゲノム解析やクローン技術開発を行っていた畜産試験場の研究者、免疫機構の研究を行っていた家畜衛生試験場の研究者が加わり、農林水産省所管の独立行政法人・農業生物資源研究所となった。

農業生物資源研究所の目標は、農林水産業の生産性の飛躍的向上と新たな展開を可能とする新産業の創出のための生命科学研究の深化・加速を図ることです。同研究所の職員数は常勤職員、約400名、うち研究職約270名となっている。(2005年4月)


・ガンマ線照射施設

放射線育種場には、農作物の突然変異育種のために3つの主要なガンマ線照射施設があります。


・ガンマーフィールド

ガンマーフィールドは半径100mの円形圃場で、中央に88.8TBq(テラベクレル)のCo-60(コバルト60)線源を装備した照射塔があり、周囲を高さ8mの防護用の土堤で囲まれた野外緩照射用施設です。


   

(写真左:茨城県 独立行政法人 農業生物資源研究所 放射線育種場 / 写真右:ガンマーフィールドの照射塔)


・ガンマールーム

ガ ンマールームは、種子、球根、穂木などを短時間に照射する施設です。


(写真:茨城県 独立行政法人 農業生物資源研究所 ガンマールーム)


・ガンマーグリーンハウス

ガンマーグリーンハウスは半径7mの正八角形の温室で、暖地及び亜熱帯作物のための緩照射用施設です。

(写真:茨城県 独立行政法人 農業生物資源研究所 ガンマーグリーンハウス)


・放射線育種の成果


・ゴールド二十世紀

梨の代表的な品種である「二十世紀」の新品種「ゴールド二十世紀」。二十世紀は黒斑病にかかりやすく栽培農家はその農薬散布などの対策に苦しんできました。ゴールドニ十世紀は、黒斑病に対する抵抗性を持つ以外はほとんど二十世紀と同じで特定の1形質だけを変えるという突然変異育種の利点を見事に実現したものと高く評価されています。

・イネの新種類:「レイメイ」や「アキヒカリ」

「レイメイ」や「アキヒカリ」は放射線照射により品種改良されたイネの短躯品種であり、稲が倒れにくいという特徴を持っています。

・米アレルギー疾患用の「低アレルゲン米」、腎臓疾患用の「低グルテリン米」

「低アレルゲン米」は、米アレルギーの原因となる16kdグロブリンの含有量が低い特徴をもった、米アレルギー疾患用に開発されたコシヒカリの新品種。「低グルテリン米」は、人体内での消化率の高いタンパク質であるグルテリンの含有率が低い、肝臓患者のための低タンパク米。これらの米は今後実用化されようとしています。

※ イネに関しては、ゲノムの塩基配列が明らかになったことから、ポストゲノム研究として遺伝子の機能を解明する研究やゲノム情報を用いて目的とする突然変異を選択する技術構築に向けた研究が行われている。

このほかにも、純白系エノキダケ「臥竜1号」、常緑性高麗芝「ウィンターカーペット」、色々な花色の菊など利用価値の高い品種が作出されています。


参考:農業生物資源研究所 放射線育種場HP

農業試験場研究報告書