『イオンビーム育種』



・イオンビーム育種とは

イオンビーム育種は放射線としてイオンビームを用いて植物の突然変異を誘発し、農作物品種を育成する品種改良技術で、1987年から研究開発が始まった純日本産技術です。

イオンビームを用いた育種は、X線、ガンマ線、中性子線などの従来の放射線育種に比べて遙かに幅広いバリエーションの突然変異を効率的に誘発することができ、親の良質な形質を保有しながら花色、花形、花弁の数などを変化させるといった効率的な育種が可能となります。


・イオンビームとは

イオンビームは、炭素原子や窒素原子などをイオン化した後、サイクロトロン(加速器)で光の 1/2〜1/5まで加速して、照射できる状態にしたもの。染色体DNAの微細な部分に変異を導入することから、ガンなどの医療分野や植物の突然変異誘発などに利用されています。

日本原子力研究開発機構のイオン照射研究施設(TIARA)、理化学研究所の加速器研究施設(RARF)、放射線医学総合研究所の重粒子がん治療装置(HIMAC)および若狭湾エネルギー研究センター(WERC)の4つの施設で利用されています。 ( 2006年現在 )


イオンビーム育種の利点

イオンビーム育種の特徴は次のとおりです。

多種多様な品種の作出

ガンマ線などに比べて、イオンビームでは突然変異スペクトルが広く、多様な突然変異を引き起こすことが出来るので、これまで作れなかった新しい形質の品種を効率よく作り出せる可能性が高くなります。

選抜作業の効率化

イオンビームでは突然変異率がガンマ線などに比べて数倍から数10倍高くなるので、少ない試料を使って効率良く目標とする改良が達成できる。最初に扱う個体数が少ないため、広い栽培施設や圃場が不要になり、また少ない労働力と短い選抜期間で品種改良ができるというメリットがあります。

育種期間の短縮

イオンビームで作った突然変異体は目的とする形質変化以外に付随する変異が少ないため、比較的短期間で品種が育成できます。

X線やガンマ線等による従来型の放射線育種の唯一の欠点は、一つの品種を作り上げるのに、戻し交配を繰り返すため十年といった長い時間がかかることです。しかし、イオンビームはよけいな変異を起こさずに、ピンポイントで変えたい形質だけを変えることができます。実際にカーネーションで、耐病性をそのままに、花の色を変えた品種が二年という短期間で実用化しています。


・イオンビーム育種の成果

2002年、種子を作らないために花持ちの良いバーベナが理化学研究所とサントリーフラワーズとの協力で開発され、商品化されました。また、その同時期に、新しい花色のカーネーションが原研とキリンビールとの協力で商品化され、同年の秋には原研と農業生物資源研究所放射線育種場が共同で、キクの花色新品種の実用化されました。2003年には、鹿児島県バイオテクノロジー研究所が側枝の出ない冠婚葬祭用白輪菊の育成に成功し、翌年に実用化されました。

このほかにもメロン、ソバ、イネにおいても研究が進んでいる。

イオンビーム照射は花色に限らず、収量、品質、各種の抵抗性などの突然変異の幅を広げるのに有効とみられ、各種の植物の新品種の育成に貢献することから、今後もさらなる研究成果が発表される思われます。

新しい花色のカーネーション : キリンビール株式会社

イオンビーム照射と培養法によりキクの原品種「大平」から誘発された花色突然変異品種 : 農林水産省 農林水産研究情報センター

イオンビーム育種法による変化アサガオ : 独立行政法人 理化学研究所



<参考>

 独立行政法人 理化学研究所
社団法人 農林水産先端技術産業振興センター
原子力百科事典 ATOMICA