『バイオレメディエーション』



環境浄化・修復技術には、汚染土壌やヘドロなどを高温で熱分解する焼却処理、汚染した土壌のみを掘り出す掘削除去、土壌や水中の汚染物質を蒸発させたりしてガス化し活性炭などで吸着させる活性炭吸着、貴金属や化学物質などの触媒作用により無害化させる触媒処理、高温の熱をかけ、汚染土壌をガラス状に固化させるガラス固化、化学薬品で汚染土壌を洗浄する土壌洗浄法などがありますが、その中でも特に注目を浴びているものがバイオレメディエーションです。


バイオレメディエーション (Bio Remediation) とは

バイオレメディエーションとは、細菌などの微生物が持っている化学物質分解能力を活用した環境浄化・修復技術のこと。

汚染土壌や汚染水に栄養分などを与えて、分解微生物を増殖させ分解を促進させたり、分解微生物を散布したりと、より積極的に有害物質を分解し、環境修復を図ろうとする工学的な手法。安価であり安全性が高く、汚染現場で浄化が行えるため、環境汚染対策に大きな力を発揮することが期待されている。(基本的には、植物や動物の死骸などが最終的に微生物によって分解される現象と同じ)

揮発性有機化合物やダイオキシン類などの有害化学物質の分解への応用が期待されているが、副生成物の発生など新たな環境影響につながる恐れもあり、環境影響評価には十分な配慮が必要とされる。

※ バイオ(bio:生物)とレメディエーション(remediation:修復、浄化)を組み合わせたもの。


バイオレメディエーションの長所 バイオレメディエーションの短所
常温・常圧で使用できるため、エネルギーをあまり必要としない 浄化に時間がかかる
安価である 高濃度汚染には適さない
建物や施設などの建築物を壊さず、原位置での浄化が可能 複合汚染の浄化には技術的課題が多い
施設などを操業しながら浄化が可能 有害な分解代謝物又は中間物質が副生するおそれがある (実用に際しては十分な基礎データが必要となる)
低濃度・広域の浄化に適している


微生物を活用したバイオレメディエーションは、微生物の活用の仕方によって2つに分類されます。

1.バイオスティミュレーション

土壌1g中には約1億匹もの土壌微生物が生息しているので、この微生物を活性化させて、環境浄化を図るものです。具体的には、汚染した土壌・地下水に窒素、リンなどの無機栄養塩類、メタン、堆肥などの有機物、さらに空気や過酸化水素を導入し、現場に生息している微生物を増殖させて浄化活性を高めます。

2.バイオオーグメンテーション

汚染現場に微生物がいない場合に、培養した微生物を導入して浄化する方法です。汚染物質の種類、汚染の濃度や広がり具合、土壌の種類、現場での水の流れなどを把握し、適切な微生物を導入します。また、微生物の分解能力が低い場合には、遺伝子組み換え技術によって、より強力な分解菌をつくることもできると考えられます。


・実用化への経緯

バイオレメディエーションを一躍有名にしたのは、1989年にアラスカ沖で発生したエクソン・バルディース号の原油流出事故です。汚染の除去修復にエクソン社とアメリカ環境保護庁(US-EPA)が共同で当たりました。この時の油浄化の方法は、海岸に栄養剤(肥料;チッ素やリンなど)を散布することで、自然界に元から存在する石油分解微生物の増殖を促進させるという手法(バイオスティミュレーション)を用いました。対照区と比較した結果、有意な結果を得られたとのこと。

 これ以降、原油流出事故で多くの適用例があります。1997年1月に起きたナホトカ号による日本海重油流出事故の際にもこの技術を用いた実証試験が行われました。

大規模な油汚染浄化の実証試験としてクウェートでの原油汚染土壌浄化作業があります。湾岸戦争時に流出した原油により汚染された土壌を化学洗浄法とバイオレメディエーションで浄化するもので、クウェート科学研究所の協力のもとで、石油産業活性化センター・清水建設(化学洗浄法)・大林組(バイオレメディエーション)が作業を行っています。まず、化学洗浄法により高濃度の原油を低濃度に洗浄し、バイオレメディエーションを使って植物が生育するまで浄化を行います。現在も実験が続いていますが、汚染土壌に栄養塩を添加し、十分に酸素を供給することにより、今では汚染した土壌に植物が生えるまでに浄化されています。

日本国初のバイオレメディエーション実証実験は、千葉県でのトリクロロエチレン(ハイテク部品の洗浄剤やドライクリーニングの溶剤として使用された溶剤)により汚染された地下水を微生物を使って浄化する実験です。(※1995年 千葉県君津市、通産省所管のRITE(地球環境産業技術研究機構)プロジェクト)


・事業化

バイオレメディエーションは、欧米において既に多くの実用例があり、流出油の処理や土壌・地下水汚染の有効な浄化手段の一つとして、多くの企業が事業化しています。特に米国に置いては、汚染地の浄化が法律により義務づけられたことから(スーパーファンド法など)、環境汚染修復技術の一つとしてバイオレメディエーションの技術開発並びに実際の修復が進められています。

日本においては、厨房 やグリーストラップにおける廃油などの処理、工場排水における有害物質の分解処理、ガソリンスタンド等に由来する油汚染や跡地の浄化手段として、微生物製剤(特定の微生物を液状や粒状化させ扱いやすくした製剤)が販売されていますが、まだまだ発展途上の浄化技術であり、今後の展開が待たれる技術です。

伊藤忠エネクス株式会社、DOWAエコシステム株式会社、三菱マテリアル資源開発株式会社等ではすでに事業として乗り出している。


・将来的な動向

近年の土壌・地下水汚染への関心の高まり(ISO14000sの取得、土地の時価評価)などを考えると、今後加速的に成長する可能性をもった産業になるのではないかと期待されています。(2020年の国内市場規模予測は、1,800億円とも言われている。)

ただ、バイオレメディエーションの普及には、越えなければならないハードルがあります。

1.環境浄化微生物の開発

より強力な分解菌の育種、汚染物質を完全に分解させる微生物の開発。

2.環境影響・安全性評価

微生物の開発と環境浄化への応用にあたっては、土の中にその微生物を入れた場合にほかの微生物を殺してしまわないか、人への影響はないか、異常に増殖したり有害分解生産物がないかなどの、安全性の確認が必須といえる。そのためにも、環境汚染物質分解菌の病原性・毒性試験、生態系への影響及び汚染物質の分解生産物の評価を十分に行わなければならない。

栄養物質等微生物以外の環境への導入物質の影響の検討も必要といえます。

3.パブリックアクセプタンス

生物を使った技術であることから、社会的受容性(PA:Public Acceptance)が必要不可欠であるといえます。