『GM植物の安全性について


・安全性とは

「安全と安心」という言葉からは、同じような印象を受けるかもしれません。しかし、安全とは「科学的・客観的評価で、リスクは無視しうるぐらいに少ないこと」をいい、安心とは「心理的・主観的な評価で、信頼できる気持ちのことで個々人によって異なること」であり、必ずしもイコールではありません。 すなわち「食品の安全性」とは、科学者や専門家が様々なリスク評価を行って決めていくものです。

また、リスクという用語の定義は、FAO/WHOの専門家会議または国際政府間組織CODEXの勧告によると「リスクとは、食品中にハザード(危害)が存在する結果として生じる健康への悪影響の起こる確率とその程度の関数である」となっています。


・遺伝子組み換え食品の安全性


遺伝子組み換えによって新たに作られる物質は、主としてタンパク質です。これらのタンパク質は食べた後には消化されてしまうので、体内に蓄積して悪影響を及ぼすことは無いと確認されています。

また、一般的な市場で流通する遺伝子組み換え食品は、最新の科学的根拠をもとに安全かどうか判断されています。安全が確認されていない遺伝子組み換え食品が市場に出回らないように厳重に管理されているので、市場で手に入るGM食品は安全性が証明されているといえます。

さらに、安全性の審査を経た旨を公表された食品又は添加物について、新たな科学的知見が生じたとき、その他必要があると認められたときは、食品安全委員会の意見を聞いて再評価を行うこととしています。その結果、人の健康を損なうおそれがあると認められた場合は、その旨が公表されます。

厚生労働省は、2001年4月から、厚生労働大臣による安全性審査の行われていない食品の製造・輸入等を禁止しています。その制度の施行にあわせて、安全性未審査の遺伝子組換え食品が国内で流通していないことを確認するため、モニタリング検査(抜き取り検査)を行っています。


・安全性審査とは

遺伝子組み換え食品は、内閣府-食品安全委員会・厚生労働省による安全性審査を受けることが義務付けられています。専門家グループによる審査を受けた結果、安全性が確認されたものだけが市場での販売や流通を認められ、一般の人々の口に入ります。

安全性審査では、申請者が提出した安全性評価の詳細な資料について、その評価が本当に正しいものであるか専門家によって厳しく審査されます。 組み込んだ遺伝子の安全性や、組み込んだ遺伝子によって新たに作られるタンパク質の安全性、遺伝子を組み込んだことによって予想外の変化が起こっていないか、アレルギー誘発性が高まっていないかなど細部にわたって調べられます。

そして、従来の食品と同じように食べても安全であることが確認された遺伝子組み換え食品だけが、日本での販売や輸入が許可される仕組みになっています。


遺伝子組換え植物の安全性確認状況(農林水産省)

食品安全委員会 (内閣府)

・国際的な検討・取り決め

遺伝子組み換え食品の安全性を評価する上で、基本となっている概念は「実質的同等性」という考え方です。

これは、遺伝子組み換え食品を既存の食品と比較することによって、その安全性を評価するという方法で、1993年にOECD(経済協力開発機構)において示されました。この概念は各国で採用されていて、日本もこの考え方を取り入れて安全性審査を行っています。

また、遺伝子組み換え食品について国際的な基準をつくるために、国際政府間組織CODEXでは、遺伝子組み換え植物の安全性を評価するためのガイドラインや、リスク分析の原則などの策定に取り組んでいます。

※ CODEXとは、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が合同で設立し、さまざまな国際食品規格の策定などを行っている組織です。


・同質的同等性とは

「実質的同等性」とは、遺伝子組み換え食品の安全性を評価する上で、遺伝子組み換え作物と従来の作物(これまで人々が食べてきた作物)を比べることができるかどうか判断するときの基準になる概念です。

遺伝子組み換え食品の安全性評価の一つとして、これまで安全に食べられてきた作物(食品)と比較することが考慮されます。つまり、遺伝子組み換え作物と従来の作物を比べて「実質的に同程度とみなせるかどうか」が検討されます。

「実質的に同程度とみなせる」と客観的に判断された場合、これまで安全に食べられてきた作物(食品)の知見などの蓄積が十分になされていることなどが考えられ、同じ構成成分等の安全性については評価をされません。
※ 新しく生じる変化(新しく導入した遺伝子により変化した成分等の安全性など)については安全性が評価されます。

このように実質的に同等とみなすこと自体が、遺伝子組み換え作物が安全であることを意味することではありません。実質的に同等な遺伝子組み換え作物の安全性は、それが実質的に同等とみなすと判断されたうえで、新しく導入した遺伝子により変化した成分等の安全性など、既存の作物(食品)とを比較して安全性を判断しています。


・共存法とは

「共存法」とは、EUの農業分野において、遺伝子組み換え作物、在来の作物、有機農業の3者が互いに共存でき、生産者が各々の栽培手法を選択できるためのルールを指しています。一般に「Co-existence(共存)」と呼ばれています。

遺伝子組み換え農作物・食品に懸念を持つ人が多いEU域内において、栽培や販売を認可された遺伝子組み換え作物の種類が徐々に増えています。これにより、遺伝子組み換え作物を導入する農家が増加することが予測され、遺伝子組み換え作物と他の作物を共存しながらどのように栽培するかという問題が生じました。そこで、EUでは共存方策の検討が行なわれ、これを基にした「共存ガイドライン」が2003年に策定されました。

このガイドラインは、基本的に遺伝子組み換え作物を取り扱う者(生産者・流通業者等)に対するものです。国によって栽培等の状況が異なるため、具体的なルール作りは各国に委ねられています。なお、各国における共存方策の共通点は、遺伝子組み換え作物を栽培する場合で以下のとおりです。

1.免許制にするなど、遺伝子組み換え作物を栽培するにあたり資格を求めること

2.栽培における作物管理(隔離措置を設ける等)などの適切な生産管理の基準を制定 し、それを遵守すること

3.近隣生産者・関連の行政機関に事前通告すること


すでに、ドイツ、イタリア、デンマーク、オランダでは、共存法の法律が制定されていますが、国によって方針は異なります。例えば、遺伝子組み換え作物を許容していこうとするデンマーク・オランダに対し、ドイツでは事実上の禁止に近い方策が打ち出されています。

このほか方針が異なるのは、遺伝子組み換え作物の混入・交雑等による経済的損害が発生した場合の損失補填方法です。例えば、基金によって賄うデンマークに対し、ドイツは遺伝子組み換え作物を栽培した農家の連帯責任として損失補填を求める内容になっています。しかし、混入の原因が特定できない場合は基金を使うなど、状況によって考え方が区別されています。

各農家の考え方や流通状況などの違いから、各国レベルでの法整備等が進められています。また、農家の選ぶ自由、栽培の権利など多くの課題が残っています。生産・経営管理、近隣との相互理解など、慎重に議論を重ねていく必要があります。

(最近、日本でも遺伝子組み換え作物の栽培に関する議論で「共存法」が注目されています。)


<参考資料>

農林水産省HP 

厚生労働省HP 

社団法人 農林水産先端技術産業振興センターHP