自然環境への影響


遺伝子組み換え作物による遺伝子汚染

遺伝子汚染とは、ある生物個体群の遺伝子プールが、なんらかの形で、本来あり得ないような人為的撹乱を受けることを指します。他地方の個体を野外に放せば、その地域の個体群に遺伝子汚染が起こる可能性がある。(基礎科学が取り扱う現象として、より中立性を目指した「遺伝子流出」という呼び方も提唱されている。)

現在、開発・実験段階での遺伝子組み換え作物は、自然環境に影響を与えることがないように、空気や水の出入りが管理された閉鎖的な実験室内で取り扱われ、安全性を確認しながら研究が進められています。そして、開発された遺伝子組み換え作物を一般的な環境で栽培したり、産業利用するにあたっては、事前に環境への影響がどのようなものか確認を行う制度が設けられています。

確認は、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)において、定められた省令に基づいて実施され、フェンスなどで外界と仕切られた隔離圃場において試験的な栽培が行われることになっています。

しかし実際には、遺伝子組み換え作物の栽培は限定された区域でしか行われていないとされるが、その植物の花粉などの区域外への移動を防ぐ設備などは存在せず、そこから区域外の植物に対して遺伝子汚染が広がる可能性があるというのが現状です。


カルタヘナ議定書 ( Cartagena Protocol )

 地球上の様々な生物の生態系のバランスを崩さないように、人為的につくられた新しい生物(遺伝子組み換え生物など)を環境へ導入する場合の適切な管理や、評価制度の整備について盛り込まれた国際的な枠組みを規定した議定書で、2000年1月に採択。コロンビアのカルタヘナという都市で1999年に議定書採択を目指した締約国会議が開催され、都市名にちなみ、カルタヘナ議定書と命名された。

 対象となるのは遺伝子組み換え農作物や微生物、科を超える細胞融合などで、ヒト用医薬品は含まれない。具体的には、これらの生物の国境を越える移動を規制し、生物多様性保全を図る条約である。この議定書は50か国が批准してから90日後に発効となるが、2003年9月11日に50ヶ国が批准したのを受けて発効している。日本は、カルタヘナ議定書に対応する国内法を2003年6月に成立させ、同年11月21日に議定書を締結した。


生態系への影響

遺伝子組み換え作物の栽培をする際には、生物多様性影響評価を行い、農林水産大臣・環境大臣による承認が必要とされています。

例えば、害虫抵抗性作物を栽培する場合には、その作物が標的害虫以外の昆虫の生態に対して本当に影響を与えないものなのか、作物が生態に影響するならばそれはどのような影響なのかということを事前に十分な確認を行なうことになっています。(現在のところ、害虫抵抗性作物について、農林水産省は「特に影響はない」と結論付けています。)

「遺伝子組み換えトウモロコシの花粉を食べたチョウが死んだ」という記事が科学雑誌「Nature」(1999年5月20日付け)で発表されましたが、科学的な検証を行った結果、「実験レベルでは影響が見られるが、自然状態では個体群の存続に与える影響は無視できる」と結論づけられました。

遺伝子組み換え作物を一般の環境で栽培したとしても、自然界の生態系を大きく変化させる可能性はきわめて低いといえます。しかしながら、ある一時点での小さな影響が将来においてどのような大きな影響を与えるのか判断することはできません。徹底した調査の積み重ねが必要だといえます。


・交雑問題

農林水産省によると、「現在の遺伝子組み換え作物は栽培用に開発されたもので、人が除草や施肥などをして保護しなければ、基本的には生育できなくなっています。管理された農地でしか繁殖できないため、トウモロコシや大豆などの農作物が自然環境下で野生化してしまうことはまずありません。」と発表しています。

遺伝子組み換え作物は、除草剤の影響を受けないという性質(除草剤耐性)が加わっても、それだけで作物の生命力や繁殖力が強くなったりするわけではないので、雑草化してしまったり、自然環境において他の植物より優位に繁殖するということはないと考えられています。

実際に、アンデス地方で遺伝子組み換えトウモロコシが野生に混入した時、トウモロコシはアンデスの厳しい環境に適応できずに死滅したという記録があります。

また、セイヨウアブラナ、テンサイ、トウモロコシ、ジャガイモについて、それぞれ組み換え・非組み換え作物を12か所で栽培し観察した結果、4年以内に、非組み替えのジャガイモを除いたすべての作物が死滅したという報告もされています。

遺伝子組み換え農作物とその近縁種である雑草が交雑して、除草剤耐性の遺伝子が雑草に移ってしまったとしても、その雑草の自然環境における生命力や繁殖力が強くなったりするわけではないので、大規模な交雑問題に発展する可能性は低いといえます。