『植物バイテクとは』


植物バイテクとは


 植物バイテクとは、植物・生物のもつ能力や機能、生態反応などを活用する技術のことである。こうした技術は、古くから動植物や微生物を利用してきた農業や醸造業などの分野では、「バイテク」という言葉が生まれる以前から存在してきたともいえるが、1970年代頃からは細胞や遺伝子レベルでの技術開発が進み、細胞融合技術や遺伝子組み換え技術を用いる新たな植物バイテクが盛んになってきた。


オールド・バイテクとニュー・バイテク

植物の組織や細胞から植物体を再生させる技術は、古くは園芸家の取り木や挿し木にその源流をもつものである。胚培養や成長点培養(茎頂培養)などの「オールド・バイテク」に見られるようにその歴史は古く、そのバックグラウンドの情報は膨大なものである。

さらに、細胞融合技術や遺伝子組み換え技術のような「ニュー・バイテク」の出現によって、植物バイテクは新たな局面を迎えた。

しかしながら、ニュー・バイテクの分野はここ20年余りに渡る多くの研究者や研究費の投入によってめざましい進展をとげたものの、当初期待されたものに応えるにはまだまだ時間がかかることがわかってきた。相次いで参入してきた企業の研究グループの中には、縮小や撤退に追い込まれたところも少なくない。工業製品や医薬品と違って植物バイテクによる産物は、なかなか目に見える形で利潤を生み出さなかったようで、「植物バイテクは儲からない」という声も聞かれる。

その一方で、オールド・バイテク(胚培養、葯培養、細胞選抜などの組織・細胞培養技術)からは、新品種や優良種苗などが途切れることなく生み出されている。都道府県の試験場や研究所のバイテク部門では、遺伝子組み換え以外の技術開発に重点を移しているところが少なくない。自治体の厳しい財政状況にあって、消費者の評価が定まっていない遺伝子組み換え作物の開発に力を注ぐことは小休止し、ウイルスフリー化技術や胚培養などの評価の定まった技術を駆使して植物バイテクの成果を着実に生み出そうという動きがある。

種苗の大量増殖や植物の改良を行う上で最も大切なことは、安定した培養技術を対象とする植物で確立することである。例えば、種苗の大量増殖に培養技術を利用する場合、増殖した苗の変異とコストを抑制することが大切である。これらができないと、実験としては成立しても、実用技術としては利用できない。

また、植物の遺伝子組み換えに培養技術を利用する場合、多数の組み換え植物を容易につくり出せる安定した培養技術の開発が必要である。現時点の遺伝子組み換え技術では、外来遺伝子を核内の狙った場所に確実に導入することはできない。

したがって、役に立つ組み換え植物をつくるには、多数の独立の組換え体を作成し、その中から目的の能力を発揮している組換え体を選ぶ必要があり、そのためにも安定した培養技術が大切だといえる。