「ウイルスフリー苗作出技術」



植物ウイルスとは

植物ウイルスは主として、リボ核酸(RNA)とタンパク質が結合した核タンパク質の巨大分子である。
植物がウイルス病に感染すると、葉がモザイク症状になったり、ちぢれたりして生育が悪くなり、収量が低下する。
ウイルス病に効果のある農薬はいまだに開発されておらず、現在でもウイルスに感染した株は早期に抜き取るしかその蔓延を防ぐ方法がないという大変やっかいな病気である。


・ウイルスフリー苗の作出

植物ウイルスは特殊な例外を除いて種子には進入しないので、種子繁殖性作物では種子を経ることで、ウイルスが除去されてきた。

しかし、作物の中には種子のできにくいもの(イモ類やニンニク、ラッキョウなど)、できても遺伝的に固定していないので種子では品種の性質が変わってしまうもの(果樹類、イチゴ、カーネーション、キクなど)がある。これらの作物では長年にわたって栄養繁殖が続けられたために、ウイルスに感染していない個体がなくなって、品種の劣化が進み産地が消滅してしまうことさえあり、ウイルスの除去は重要な課題であった。

「茎頂の培養によってウイルスに感染していない苗を作出しうるのではないか」と、最初のきっかけを与えたのはアメリカのホワイトだった。彼は「タバコモザイクウイルスに感染したタバコの根端にはウイルスが存在しないようだ」と報告した。その後、実際にウイルスフリー苗を作出したのは、フランスのモレルだった。1952年、モレルはダリアモザイクウイルスに感染しているダリアの成長点を取り出して培養し、モザイク症状の消えた苗を作出した。このモレルの研究が刺激となって1950年後半から60年代にかけて、ウイルスの感染に困っていた多くの作物で茎頂培養が相次いで試みられた。

日本では農事試験場(当時)の病理研究室のグループがこの課題に取り組み、1957〜1969年の間にサツマイモ、ジャガイモ、イチゴ、ニンニク、カーネーション、キクなどを用いて茎頂培養によるウイルスフリー苗作出技術を確立し、その成果はその後のウイルスフリー苗作出の中核となった。

ウイルスフリー苗作出技術は、植物バイテクの成果を誰の目にもはっきりと示すことのできる技術となっている。現在では、日本で栽培されているジャガイモの9割以上、イチゴの7割、サツマイモの4割など数多くの農作物にウイルスフリー苗が使われている。ウイルスフリー苗の利用は産地の増収や良品率の向上に結びついていて、着実に地域農業に根付いている。