アグロバクテリウムという土壌微生物をとってきて植物に塗るとこぶができます。アグロバクテリウムというのは、輪っかになった遺伝子を持っていて、その一部で、T- DNAという部分だけがアグロバクテリウムの中で切り出されて植物のDNAの中に送り込まれる。このT- DNA上にある遺伝子が実際に働いて、こぶになる。こういう風にして、まさに自然界でふつうの現象として、遺伝子組み換えが起こっている。
一見、組み換え食品の安全性の問題として騒がれているようでありながら、実はそうではない部分で騒がれている問題が日本ではいっぱい起こっている。一例をあげれば、遺伝子組み換えパパイヤは厚生労働省では、まだ安全性の最終確認が終わっていなかったが、未承認のものが入っていたということで即刻、回収されるという騒ぎがあった。これは食品として危険だからということではなく、たまたま日本では別な理由でまだ承認されていなかっただけである。
世界の人口は増えているが、今までの品種改良では世界の人々に食料を供給できない。食料を増やす手段の一つとして、遺伝子組み換えがある。日本では確かに食べるものはいくらでもあるので、遺伝子組み換え技術は必要ないかもしれない。しかし、サイエンスは日本人のためだけでなく、世界の人々のために役立てているのだ。
基本的に食品は安全ではない。ジャガイモはアルカロイドという毒物をもともと作っているし、トウゴマはリシンという毒素を持っている。日本伝来の食品といわれているトチだとかワラビというのはあく抜きしないと食べられない。食品というものはそういうものである。こういう現実の食品の中で、安全性とは何かという議論をしなければ始まらない。
遺伝子組み換えのナタネだとかジャガイモを自然の中に敢えて植えて、そのまま10年間放っておこうということをやったが、結果は2〜3年のうちに全部消えてしまった。自然界の雑草のほうがはるかに強いというのが現実である。
遺伝子が移るという事実は現実的にはない。腸内の微生物にうつるという議論もあるが、サイエンティフィックなデータとして、遺伝子組み換えのトマトを一生食べ続けても、腸内細胞に抗生物質耐性の遺伝子が移って働く可能性はほとんどない。