EUの政治的措置ーモラトリアム

1999年、EUは新たな遺伝子組換え農作物の市場流通許可の凍結を発表した。今後安全性の確認・適切な表示規則・トレースアビリティの確保といったことが出来るようになるまで、EUでは新たな遺伝子組換え農作物の市場流通許可がおりなくなる。


1999年6月24日から25日にかけてルクセンブルグで行われたEU環境大臣会合において、EU指令「90/220」を強化する方向で見直しが行われることとなった。また世論を反映して、新たな遺伝子組換え農作物の市場流通の認可の凍結が発表された。(モラトリアム)この凍結措置は法的な措置ではなく、加盟国間の「紳士的協定」としての措置として行われた。

見直しについては、遺伝子組換え農作物の市場流通の認可に当たって、リスク評価の手続きの強化、一般への情報提供、適切な表示、添付書類により、耕作から最終消費までの追跡可能性(トレースアビリティ)の確保、認可する際に一般および科学者との協議過程の設定、認定期間を10年とする、新たな情報により認可の修正も可能とする、ことなどが内容とされている。

認可の凍結については加盟国の15カ国の意見が3つに分かれ、2つの宣言が発表された。
オーストリア、ベルギー、フィンランド、ドイツ、オランダ、スペイン、スウェーデン 環境および人の健康に何ら負の影響が無いことが示されるまでいかなるGMOの市場投入も承認しない。
フランス、デンマーク、ギリシャ、イタリア、ルクセンブルグ GMOおよびGMO由来製品に表示を行い、追跡調査できるような規制が採択されるまでは新たな承認の延期を申し立てる。
イギリス、アイルランド、ポルトガル 宣言に参加せず。

表示規制

2004年4月18日:EUのGMO表示・トレーサビリティー新規則が発効
遺伝子組み換え体(GMO)を含み、あるいはGMOから生産される製品の表示・トレーサビリティーに関するEUの新たな規則が4月18日に発効した。事業者は市場の各段階でこれらの製品に関する情報を伝達、5年間にわたり保存しなければならなくなる。また、GMOを0.9%以上含む食品・飼料は、偶然または技術的に不可避であることを証明しないかぎり、「GMOを含む」とか「GMOから生産された」と表示しなければならない。

新規則発効で重大なを影響を受けるのは、おそらく米国食品産業・農業だろう。米国大豆の80%はGM大豆だ。今まではGM成分の痕跡が残らない大豆加工食品(大豆油など)や飼料成分に「表示」の必要はなかったが、今後は表示を強制される。表示をすれは、ヨーロッパは受け入れないだろう。表示の「汚名」を避けるためには、代替品を開発するか、一部企業はヨーロッパに移転することになるだろう。モラトリアム解除で輸出は可能になるとしても、GM食品・飼料を輸出しようとすれば、農業生産から輸出にいたるすべての段階の関係業者は記録を作り、5年間保存しなければならない。全米コーン栽培者協会は、このペーパーワークは「気が遠くなる」、このシステムは「極度に高くつく」と言う。

米国の主要農業・食品団体は、EUの表示・トレーサビリティー新ルールは重大な貿易障壁になると言い、WTO提訴を政府に強く迫っている。EUのルールは世界を主導するおそれがあるから、米国業界は世界中で同様の問題に直面することになるだろう。米国業界によれば、実際、既に米国の上位輸出国25のうち、20が表示ルールを採択している。EUは5月から25ヵ国に増えるから(EU拡大)、EUと同様なルールを採用する国は一気に10ヵ国増える。世界最大の食品団体・アメリカ食料品雑貨製造者協会の国際貿易部長は、「これらのルールは世界経済全体にとって重大な意味をもつ」と言う。GM作物導入による農業開発加速を狙う途上国もとばっちりを受けるだろう。

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