遺伝子組換え農作物に関する科学的発表

1998年〜99年にかけて、遺伝子組換え農作物に関する安全性に否定的な実験結果が報告され、その影響により、これまであまり問題にされていなかった遺伝子組換え農作物の安全性が疑問視されるようになった。ここではその元となった2つの実験について紹介する。


◆コーネル大学の報告

1999年5月20日付けのイギリス科学雑誌「Nature」は米国コーネル大学のジョン・ロッシー助教授の研究グループがおこなったBt組み替えとうもろこしが環境に与える影響についての論文を掲載した。

・実験概要
実験室内において、Bt組み換えとうもろこしの花粉を振りかけたトウワタの葉をチョウの一種であるオオカバマダラの幼虫に摂取させたところ、4日間で44%の幼虫が死に、生き残った幼虫も発育不全になった。この実験結果より研究グループは以下のような結論を導き出した。

1.Btとうもろこしは、とうもろこしの害虫であるアワノメイガを標的としたものであるが、実際には標的害虫以外にも影響を及ぼす。
2.とうもろこしの花粉は60m以上飛散することから、農場の外の植物に花粉が付着すると、その花粉が付いた植物を食する他の生物に影響を及ぼす可能性がある。

・発表後の反響
オオカバマダラは美しい大きな羽を持つチョウであり、アメリカで人気のあるものであったため、この実験結果は自然保護団体に対して大きな衝撃を与えた。

コーネル大学の実験の翌年、アイオア州立大学においても同様の実験が行われ、Btとうもろこしの花粉がオオカバマダラの生存に影響を与えることが発表された。しかし、その後世界各国の20以上の研究グループによって調査が行われた結果、自然界においてはオオカバマダラの存続にほとんど影響がないことが確認された。これによると、Btとうもろこしが標的にしているアワノメイガと同じ鱗翅目であり、Btとうもろこしに導入された形質はオオカバマダラにも殺虫作用を表わす。つまり、オオカバマダラがBtとうもろこしの一部を食すると死ぬ。しかし、オオカバマダラはとうもろこしの葉を食することがない。またとうもろこしの花粉が飛散する時期とオオカバマダラの幼虫が生存する時期はずれており、幼虫がとうもろこしの花粉を口にすることはほとんどない。これらのことから自然界においてはBtとうもろこしがオオカバマダラの生存に対して影響を与えることはないということである。

その後、コーネル大学のロッシ助教授自身が、この研究は実験室内で行ったものであり、この結果をもって自然界においても同様の影響が判断するのは適当でないという趣旨のコメントを発表している。


◆パズタイ博士の実験

1998年8月10日、イギリスのローウェット研究所のパズタイ教授が遺伝子組換え農作物がラットに与える影響に関する実験の結果について、地方のテレビ番組において発表した。

・実験概要
レクチンを産出する遺伝子をジャガイモに導入し、この遺伝子組換え体がラットに与える影響について実験を行い、レクチンを産出する遺伝子を導入したジャガイモを食べさせたグループにおいて、免疫の低下や特定臓器の重量について、他のグループに比べて不安定な変化が見られたとしている。

・発表後の反響
ローウェット研究所はこの発表について、以下の発表を行い、パズタイ博士を停職処分(その後、免職処分)とした。
1.テレビ出演は研究所の許可なく行われたもの
2.発表は学会や科学誌を通して行われたものではなく、正当な審査を経たものではない。
3.社会を無用に混乱させたことは遺憾である。

またその上で、ローウェット研究所内に設けられた調査委員会はパズタイ博士からの報告書を検証に以下のような結論を出した。
1.臓器の重量変化については臓器そのものの湿重量のみを計測しており、体重当たりの乾重量に換算して比較すると、結果に一貫性が見られず、臓器重量の変化と組換え体との関連について意味のある結論を導くことはできない。
2.免疫力の低下については、統計学的な有意差を直ちに生物学的な有意差に結びつけることはできない。本実験では十分な検査が行われておらず、生物学的な有意差を示唆することはできない。

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