イギリスにおける遺伝子組換え作物に関する調査結果(2003年10月16日発表)

1999年から続くEUの新たな遺伝子組換え農作物の市場流通許可の凍結の理由の一つとして「安全性の確認」が挙げられているが、このイギリスにおける遺伝子組換え作物に関する調査により、遺伝子組換え農作物の安全性および周辺環境への影響が明らかになった。この調査報告は今後のEUにおける遺伝子組換え農作物に対する政策を決定する上で重要な資料になるだろう。


●フィールド内の雑草への影響

ビートとナタネでは、雑草コントロールはGMの方が有効で、栽培後に土壌に残された雑草種子(シードバンク)の減少につながった。これは英国の作物畑で何十年もの間起きてきたことだが、GM品種栽培によりこの傾向が加速され得る[これはヒバリのような小鳥の死活的に重要な食料源となる。その数は、60年前からの農業近代化過程で激減している]。トウモロコシでは逆の結果になった。GMトウモロコシに使用される除草剤は、非GMトウモロコシの除草剤よりも雑草コントロールに有効でない。

ビートとナタネでは、播種後の短期間の雑草密度はGM区画の方が高いが、除草剤の最初の施用後にこれが逆転する。シーズン末までには、集められた雑草の重量(バイオマス)と土壌に落ちた雑草種子(シードレイン)の数は、非GM区画の3分の1から6分の1の範囲になった。シードレインの変化はシードバンクに影響、GM区画の種子密度は20%ほど下がる。

トウモロコシでは、雑草密度はシーズンを通してGM区画で高く、非GM区画に比べ、バイオマスは82%、シードレインは87%多かった。しかし、シードバンクへの影響には差がなかった。

英国で最も普通の雑草種12が調査されたが、ビートの6種、トウモロコシの8種、ナタネの5種のバイオマスが大きな影響を受けた。一般的に、バイオマスはビート・ナタネではGMの方が少なく、トウモロコシではGMの方が多い。シードバンクへの重要な影響が雑草4種で発見されたが、ビートとナタネの多くの種(24のうち19)では、GM区画の方が低かった。これらの差違は、時間が重なると、耕地雑草密度の大きな減少につながり得る。トウモロコシでは、GM栽培により増加する可能性がある。


●フィールド内の無脊椎動物への影響

除草方法の違いは、少なくとも一つの作物において、地面で活動することが多い無脊椎動物と大分類種の捕獲量に大きな影響を及ぼした。トウモロコシではGMにより大部分が増加、ビート・ナタネではGMにより大部分が減少した。雑草の種を食べるオサムシ科の甲虫は、ビート・ナタネではGM区画の方が少なかったが、トウモロコシではGM区画の方が多かった。

雑草の上と落葉枝の中で活動する大分類種無脊椎動物は処理による影響がほとんどなかった。しかし、GMナタネでは蝶の数が減り、GMビートでは蜂、蝶、異翅目の数が減った。

しかし、枯れたり腐食した雑草の上で餌を取るトビムシ類は、すべての作物でGM区画の方が多かった。これは、GM品種では除草剤施用時期が遅く、雑草が枯れるときにはより大きくなって、これらの昆虫により多くの餌を提供するためである。


●フィールド周辺の植物と無脊椎動物への影響

周辺区域は、作付されない耕起された土地、それとフィールドの境界をなすフェンスまたはヘッジロー(生垣)との間の草の多い土地、境界そのものの三つ分けられた。ナタネでは、耕起されたGMフィールド周辺地の植物の被覆・開花・結実の方が、それぞれ25%、44%、39%少なかった。ビートでは、GMフィールド周辺地の開花・結実の方が、それぞれ34%、39%少なかった。トウモロコシでは、GM周辺地の被覆・開花の方が、それぞれ28%、67%多かった。これらの結果は、これらの植物が除草剤の影響を受けているために、作付地内の雑草への影響に相応している。この土地より外の土地では、影響はより少なく、除草剤のダメージのレベルは低かった。

GMナタネの周辺地でカウントされる蝶の数は、利用できる花の量の違いを反映し、24%少なかった。フィールド周辺地で採集された蜂、ナメクジ、蛇、その他の無脊椎動物では違いが見られなかった。


このような調査結果に基づき、英国政府の公式諮問機関である農業・環境バイオテクノロジー委員会(AEBC)が、「GM作物?共存と責任」と題する報告書(GM Crops? Coexistence & Liability)を提出した。

報告書では以下の九つの勧告を行なわれた。

1.GM作物と他の作物の共存に関する政府の政策の主要な狙いは、可能なかぎり消費者の選択を容易にする一方、英国農民が現在及び将来の国内・国際市場に対応することを可能にすることでなければならない。

2.GM作物が営業的に栽培されることになるとすれば、これを栽培する農民は、他の作物の汚染を、少なくとも0.9%以下に抑えるための法的に執行可能な作物管理プロトコルに従うべきことを義務付けられるべきである(注1)。

3.GM作物が販売されるとすれば、共存が現実に達成されているかどうか、またどこまで達成されているかを決定するための共存協定の濃密な監視と監査が存在すべき最初の導入期間がなければならない。

4.共存プロトコルを課す権限をもつ機関は、導入期間に収集されたデータによって共存と消費者選択が達成されていないとわかった場合にはそれを修正する権限を与えられるべきであり、また、政府は、必要ならば、協定が共存j問題を克服しない限り、また克服するまで、GM作物の生産を停止できねばならない。

5.自身は瑕疵がなく生産物の汚染レベルが法定レベルを超えた結果として経済的損失を蒙った農民のための、適当な時期の保険市場の開発を目指した特別補償協定がなければならない(注2)。

6.政府は、GMOの環境放出により引き起こされるすべての損害に対する英国の賠償責任制度を開発するために、EU環境責任指令草案(⇒EU:欧州委員会が環境被害予防・回復責任スキームを採択EU:汚染者負担実現に大きく前進、環境相が政治的合意)の一般的アプローチ[ 汚染者負担原則]を利用すべきである。

7.1990年環境保護法は、刑事責任の有無にかかわらず、GMOの放出により引き起こされた環境損傷に関して応分の適切な環境修復を要求することを権限ある規制当局に許すように修正すべきである。

8.1990年環境保護法は、EU指令草案が取り組む制度を反映してさらに修正されるべきである。GMO放出の拡散影響を含むすべての環境影響を処理する手段は権限ある規制当局の責任とすべきであり、それによってこの当局は修復要求を含む多数の選択肢を随意に使用できることになる。

9.GM作物及びその他の作物の耕作の建設的環境管理のための、共存プロトコルと並んで機能するプロトコルの開発に積極的な考慮が与えられるべきである。

注1.一部委員は、法的取極めが栽培許可をさらに大きく遅延させないないことを条件に、これに合意。有機農民その他0.1%の自主的上限を望む農民のためにいかなる取極めを用意すべきかについては合意できず。GM作物栽培が広範に広がれば、実際上0.1%上限は達成不能になる恐れがあることについては全委員が一致。このために、0.9%、0.1%の上限が実際の農場で達成できるのかどうか、どこまで達成できるのかの調査が必要ということで全員が合意した(→導入当初のデータ収集)。

注2.農民への補償は基本的には保険によるのがベストだが、現在はこれをカバーする保険はないし、誰が保険料を払うかという問題も残っている。導入期間のモニタリングで保険会社のリスク評価のデータを提供することによって、保険市場の開発を助けるべきである。それまでの補償の提供者としては、政府、GM作物の許可をもつ農業バイテク企業、許可保持者とその他の農業資材供給企業、政府と企業の結合、すべての農民―収穫に基づく小額の徴収が考えらられる。0.1%を超えた場合についての補償は意見が分かれた。一方は、農民からの小額徴収でなく、GM許可の保有者と政府、あるいはそのどちらかが補償のための資金を出すべきとしたが、他方は有機農業者は法定ではなく自主的に上限を課したのだから、どこからの補償も期待するのは不合理とする立場を取った。

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