アメリカがEUをWTOに提訴

1999年のEUの新たな遺伝子組換え農作物の市場流通許可の凍結を発表からおよそ4年。アメリカはEUの遺伝子組み替え食品の輸入規制が、世界貿易機関のルールに違反するとして、WTOに提訴を行った。それを受けてWTOは、8月29日の紛争処理機関会合で、専門家による紛争処理小委員会(パネル)の設置を決めた。パネルの最終報告には通常、設置決定から約1年かかる。

以下に、米国・EUの主張をまとめてみた。


米国の掲げるWTOルール違反の根拠

米国通商代表部は、EUの環境問題担当委員自身による「モラトリアム」は違法であり、正当化されないという発言を引用、次のような事実を違反の根拠として掲げる。

 ・1990年代末以来、EUは農業バイオテクノロジーの開発と利用を妨げる政策を追求してきた。

 ・1990年代末、EU6ヵ国(オーストリア、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、ルクセンブルグ)はEUにより承認されたコーンとナタネの輸入を禁止した。これはEU法違反であるにもかかわらず、欧州委員会は禁止への挑戦を拒否した。

 ・このモラトリアムは米国コーンのヨーロッパへの輸出を阻害しはじめた。EU法違反に加え、モラトリアムは、明らかにWTOルールを侵犯するものである。

 ・特に、WTOは、輸入規制措置は”十分に科学的な証拠”に基づかねばならず、規制承認手続は”不当な遅滞”なしに運用されねばならないことを要求している。

 ・WTOルールはバイテク食品の自動的承認は要求していない。しかし、現在、EUは新たな承認を与えるのを拒否している。これは、明らかにEUのWTO義務違反である。


●EUの反論

欧州委員会は、米国の決定は法的に正当と認めがたく、経済的に根拠がなく、政治的に助けにならないと遺憾を表明した。
通商担当委員・パスカル・ラミーは、「EUのGMO承認規制システムは、明確で、透明で、非差別的で、WTOルールに沿うものである。従って、WTOが審査を必要とする問題ではない。米国は”モラトリアム”と呼ばれるものがあると主張するが、EUは過去にGM品種を承認してきたし、現在も申請を調査分析中である」と言う。
保健・消費者担当委員・デビッド・バーンは、「我々は最新の科学的かつ国際的発展に沿う我々の規制システムを完成させるために懸命に働いてきた。最終的仕上げが間近に迫っている。これはヨーロッパにおけるGMOへの消費者の信頼の回復のために不可欠なことだ」、EU市場でGMO販売が少ない理由は消費者の需要がないことだと言う。
環境担当委員・ワルストロムは、「米国の動きは助けにならない。それは、既に困難なヨーロッパでの議論を一層難しくするだけだ。しかし、委員会は、我々が現在欧州議会で審議されているトレーサビリティーと表示に関する立法の完成に前進すべきだと強く信じている」と語る。
欧州委員会は、このようにEUの規制システムが経済的理由に基づくものではなく、健康と環境への悪影響を真剣に考慮するものであると主張する。

また、EUのGM規制によって米国農産物のEUへの輸出が大きく損なわれているという米国の主張に対しては、米国トウモロコシのEUへの輸出が減ったのは、米国ではトウモロコシの1−2%がGM品と分別されるだけで、その大部分がGM品を含むことは避け難く、これらGMトウモロコシの多くはEUでは未承認のものであると反論している。そのために、EUの米国トウモロコシ輸入は、1995年の332.5万トンから2002年には26トンにまで減り、EUで承認されたGMトウモロコシを生産するアルゼンチンからの輸入が53万トンから135万トンまで増えた。他方、米国のGM大豆はEUでも承認されたものだから、EU市場へのアクセスには問題はなく、米国大豆のEU市場でのシェアが減ったのは、米国の国際市場での競争力が落ちたからにすぎないと言う。 

さらに、途上国がEUの規制に倣うことで、飢餓や栄養不良との戦いが阻害されているという米国の主張に対しては、逆に、食糧援助を通してGM食品・作物を途上国に売り込もうとする米国の態度を厳しく批判している。飢餓に瀕するアフリカの多くの国が、健康・環境への悪影響、自国のトウモロコシへの組み換え遺伝子の拡散、それによる国際貿易への悪影響、先進国の「バイオピラシー」などへの恐れから、米国からの援助トウモロコシの受け入れを拒んでいる。米国は、このような食糧援助拒否の責任をEUに帰そうとしている。しかし、欧州委員会は、例えEUや米国が安全とするものでも、途上国が独自の基準に基づきGM食糧援助を拒むのは、WTOのSPS協定や技術障壁(TBT)協定、生物多様性条約のバイオセーフティー・カタルヘナ議定書が認める正当な権利の行使であり、このような合法的関心がGMOに関するEUの政策に対する米国の攻撃の理由とされることは受け入れ難いと言う。

欧州委員会によれば、飢えに苦しむ人々への食糧援助は緊急の人道的必要を満たすべきもので、外国にGM食品や輸出用作物の栽培を売り込み、国内の過剰の捌け口を求めるものであってはならない。EUの援助食糧は、可能なかぎり地域から調達しており、これは地域市場の開発に寄与し、生産者に追加的インセンティブを与え、地域の消費の慣習にマッチした食糧の配布を可能する。乾燥や酸性土壌に耐える途上国の利益となるGM作物は未だ実験段階にあり、商業的に利用可能なGM作物の大部分は除草剤耐性(75%)か害虫抵抗性(17%)のものである。しかし、貧しい国の小農民の除草剤利用は非常に限られているし、殺虫剤は基礎食糧作物ではなく、綿のような商業作物に使われているのが一般的だから、これら作物の普及による途上国の利益は限られているという。

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